2014 Fiscal Year Research-status Report
リスクに対処するためのレジリエンスと生きられた法の環境社会学的研究
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25780313
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
金菱 清 東北学院大学, 教養学部, 教授 (90405895)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 震災メメントモリ / 災害死 / 過剰なコミュニティ / 内なるショックドクトリン / 海との交渉権 / 記録筆記法 / 痛み温存法 |
Outline of Annual Research Achievements |
『震災メメントモリ-第二の津波に抗して』(2014年 新曜社)を単著で出版することができた。本書では震災で発せられる多くの“なぜ?”という問いに答えた。「なぜ命を守る防潮堤建設を地元が拒否するのか」「なぜ津波に向かって船を出す(沖出しする)のか」「なぜ心を癒すカウンセリングに被災者は行かないのか」「なぜ生産効率が下がる協業化を大人数でやるのか」「なぜアルコール依存症を誘発する居酒屋を仮設に作ったのか」「なぜコミュニティ活動が過剰になるのか」「なぜ生活の二の次である祭礼に熱心に取り組むのか」などである。 本書のメメントモリとは、死者を想えという古の言葉だる。東日本大震災の現実を見てきた私たちにとって、『震災メメントモリ』は、遺族にとって最も大事なものの喪失を色付けることを通じて、不確かな将来や亡き人を自分たちの側に手繰り寄せ、より確かであろう世界を再建する(生きなおす)人々の営為である。それは、現在進められている、死者を早く忘れることによって生の再建を果たすことや、将来再び訪れる災禍をいかに未然に防御するかに腐心してより高い防潮堤を建設してこれまでの海の暮らしの歴史性を断ち切ること、あるいは全く新たな産業を導入することで雇用を確保しようとする復興政策とは真逆の在り方である。これまで報告者は、震災の本(『3.11慟哭の記録』(新聞社学芸文化賞)、『千年災禍の海辺学』を世に送り出してきた。これらは地道なフィールドワークによって丹念に耳を傾けて洗い出してきた人々の声なき声である。 そのなかで見えてきたものは、信仰という意味での「向こう岸」の死者との霊的な交流ではなく、生ける死者との協同実存として、生者と死者の回路をつなぐ技法であった。3年経った今だからこそ見えてくる「問いかけ」を本書として成果にまとめることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目標通り出版を遂行することができた。 調査も計画通り達成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在報告者編集で震災メメントモリの続編としてさらに災害死との向き合い方に焦点を絞って『生と死の<あいだ>のコスモロジー-災害社会学からの問いかけ』を年度内の出版に向けて調査と文章化を図っている。 本書の目標は生と死の<あいだ>でしか成立しないコスモロジーの世界から、従来とは異なる災害社会学を立ち上げてみたいという狙いを持っている。災害というある種人間ではどうしても抗することができない荒ぶる自然に対して、それでもなお生き残った生者が目に見えぬ死者と交換しながら、時には遣られながら、時には抗しながら交渉する“独自の世界”を立ち上げていく。この生と死の<あいだ>のコスモロジー世界への着目と微細な観察は、人為的に災害の期間を「短縮」するという災害の軽減策としての災害社会学の射程にとってとても意義深い。 地震の揺れや津波による建物の破壊、原発事故による他所に移住するこれらはすべて「横」の動きと関わっている。自然の猛威に対して、人類という規模で対処しようとしたとき、復興の過程を辿り人間の成す術のない横の動きに対して、もう一度立ち上げる「縦」の動きが旗幟鮮明になる。二度と津波を被ることがないように高く積み上げた防潮堤、高台移転や嵩上げ工事等である。前者の横の動きが人間を自然の下位に押し流そうとするのに対して、後者の縦の動きは自然を人間の下位に置くことでそれに対置しようと試みる。 それに対して、第三の道を本書は提示する。論点をあげると、■672ご遺体の掘り起し:葬儀業者による笑いの感情労働、■死者たちが通う街:タクシードライバーの幽霊現象、■生ける死者の記憶:追悼/教訓を侵犯する、■津波のデッドラインに飛び込む:消防団員の義理人情、■埋め墓/詣り墓を架橋する-両墓制が導く墓守りたちの祈り、■原発避難区域で殺生し続ける:猟友会の供養、■共感の反作用:被災者の社会的孤立、である。
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Causes of Carryover |
当初の計画通り進んだが、書籍作成に集中したためにそれに時間をとられ使用額に差が生じてしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度には計画通り調査費等進めるべく早めに調整を図るように努力したい。
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Research Products
(3 results)