2015 Fiscal Year Research-status Report
リスクに対処するためのレジリエンスと生きられた法の環境社会学的研究
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25780313
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
金菱 清 東北学院大学, 教養学部, 教授 (90405895)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 霊性 / 震災学 / 心のケア / 生ける死者 / 曖昧な喪失の意味の豊富化 / リスク / コミュニティ / 放射能との共存 |
Outline of Annual Research Achievements |
東日本大震災から5年の研究成果として、次の2冊『呼び覚まされる霊性の震災学──3・11生と死のはざまで』と『震災学入門―死生観からの社会構想』を上程出版することができた。 金菱清編『呼び覚まされる霊性の震災学』(新曜社)では、タクシードライバーの幽霊体験、その真相とは? わが子は記憶のなかで生きていると慰霊碑を抱きしめる遺族、700体もの遺体を土中から掘り起こして改葬した葬儀社、津波のデッドラインを走る消防団員、骨組みだけが残った防災庁舎を震災遺構として保存するかなど、被災地の生と死の現場に迫った。亡くなった肉親や津波犠牲者の存在をたしかに感じるという、目にみえない霊性の世界に迫ることで、生と死のはざまの意味の豊富化を提示することができた。 金菱清『震災学入門』(ちくま新書)では、「行政効率が悪く、経済的魅力にも乏しく、危険で不便な土地に住んでいる」というマイナスのカードを他者から次々に切り続けられている被災地の当事者たちであるが、異なるアプローチから震災をとらえてみるとそれとは全く違った被災地のあり方がみえてくる。被災地に覆っているまなざしは、いずれも「屈強で個人の意思がはっきりしていてものが言える」強さに由来する論理であるように思われる。そして、そのような正しさや強さに由来する論理では、災害弱者である当事者を強く頷かせるような納得させる理屈はでてこないと言えるだろう。本研究の成果は、上から冷たくまなざされる強さではなく、被災者が直面している徹底した「弱さの論理」からの思考方法を鍛え上げた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
単著『震災学入門』(ちくま新書)、編著『呼び覚まされる霊性の震災学』(新曜社)2編を出版し、社会的貢献と研究成果の公開および世界的反響を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題「リスクに対処するためのレジリエンスと生きられた法の環境社会学的研究」の深化・進化に向けて4年間の総括を行う。
「貧困」「災害」や「開発」という将来にわたって生活の見通しの立たない日常が永続化しているなかで、その日暮らしから予見を持った日常へと変化させるためにはどのようにすればよいのか、ということについてある程度の知見を共有できている。すなわち、差別や貧困を背負った社会的弱者が立ち退きや危険だということで住むところがなくそこに居住していることの意味を研究してきた。かれらはそこで「生活」をしており、その生活を市などの地方自治体はどのように保証あるいは否定するのかという課題は、現在の福島の避難民及び社会的弱者を考えるときにたいへん有効な視角になる。
これらの蓄積された知見は、地域社会が元来潜在させてきたしなやかな復元力の所在を示すことで、それを顕在化させる安心安全自立共生のコミュニティ創成の方法を明らかにすることができるものと考えている。 「公共性と法」と、「私的生活と不法」というふたつの軸を設定して、放射線測定値の境界線(ボーダーライン)上で生活と公共性を重ね合わせて考えるところに独創性を持たせ、また施策としても有益なものが生み出されるものと推定している。災害を地域や文化の中に訓化し、飼育することを重視する本研究のプロジェクトは、次の2つの目的をもって、アクション・プランニングを提起する。①現地再生を望む「正しさ」の根拠を明らかにする。②安全安心・住居・文化・生業等の「くらし」の包括的配慮とその実現方法を映すふるさと再生プランの方向を明らかにする。
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Causes of Carryover |
当初の計画通り進んだが、書籍作成に集中したためにそれに時間を大幅に取られ、次年度使用額となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は最終年に当たるために計画通り調査などを進めるべく早めに調整を図るように努力したい。
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Research Products
(3 results)