2013 Fiscal Year Research-status Report
患児の死をめぐる小児科医の経験とその規定要因に関する探索的研究
Project/Area Number |
25780320
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鷹田 佳典 早稲田大学, 人間科学学術院, 助手 (30634266)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 小児科医 / 患者の死 / 質的研究 |
Research Abstract |
本研究はエスノ社会学的パースペクティブの手法に依拠し、患者の死をめぐる小児科医の経験の内実を、それを規定する諸要因とともに探索的に記述・分析することを目的としている。 本年度はまず、関連する国内外の先行研究を幅広く収集し、その内容について検討した。国内では、感情労働論やプロフェッショナリズム論、カウンセリング論などの観点に立った研究が幾つかあるものの、まだまだ数が少ないことが明らかになった。一方、国外では、エンド・オブ・ライフケアやグリーフケアへの関心の高まりを背景に、患者の死を経験した医療専門職者の経験に関心を向け、支援の可能性を模索する取り組みが始まっている。そこでは、患者の死をめぐる医療専門職者の経験に影響を与える要因として、多職種によるチームとしての機能や職場環境、専門職規範、患者家族との関係などが挙げられていた。これらの知見を踏まえて、インタビューガイドを作成した。 続いて、所属する大学の倫理委員会から承認を得て調査協力者の募集を開始した。個人的なつてを頼りに3名の小児科医を紹介してもらい、聞き取りを行った。インタビューの内容は本人の了解を得たうえでレコーダーに録音し、その後に逐語録を作成した。 逐語録完成と同時に分析作業に着手した。その結果、医師は治療において中心的な役割を担うがゆえに、患者が亡くなったときにはその死に強い責任感を感じてしまうこと、他の医師やスタッフに自分の気持ちを吐露することは少ないこと、患者の死後、その家族と話をする機会を肯定的に評価していること、医学教育において死の問題を考える時間はほとんどないことなどが明らかになった。これらは患者の死をめぐる医師の経験の特徴を示唆するものであり、また、医師の支援体制や今後の医学教育のあり方を考えるうえでも有用である。今後はこれらの仮説モデルをより精緻化するために、さらに調査分析を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、1)関連文献の収集・検討、2)調査協力者のリクルートと聞き取り調査の開始、3)定性的コーディングと仮説モデルの生成という三つの課題遂行を計画し、おおむね順調に進展している。 1)関連文献の収集・検討に関しては、死生学、医療社会学、看護学、精神医学などの関連領域から幅広く文献を収集したことによって、「患者の死をめぐる小児科医の経験」という本研究のテーマについてなされている議論の全体像を把握することができた。また、先行知見の詳細なレビューを行い、リサーチ・クエッションをより精緻なものにすることができた。 2)調査協力者のリクルートと聞き取り調査の開始に関しては、予定していた5名前後の小児科医への聞き取りという目標には僅かに及ばなかったものの、3名の小児科医にインタビューを行うことができた。今後は機縁法を用いて調査協力者のリクルートを行う予定であるが、既に複数名の小児科医を紹介されており、順調に聞き取り調査を実施できると考えている。 3)定性的コーディングと仮説モデルの生成に関しては、インタビュー終了と同時に守秘義務契約を結んだ業者にテープ起こしを依頼し、迅速に逐語録の作成を行った。分析作業については、まず、インタビューの内容をしっかり把握するために逐語録を複数回通読した後、セグメントを抽出し、定性的コーディングを行った。続いて各コードを比較し、そこから複数の概念カテゴリーを作成した。これらの関連づけをするなかから、「医師の喪失経験」は「知識と技術の習得を中心とする医学教育」や「医師としての専門職意識や職業規範」、「個人化された対処戦略」に規定されているという仮説モデルを生成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は当初の計画通り、集中的な聞き取り調査の実施と「飽和の段階」に向けた分析作業を行っていく予定である。 本研究が依拠するエスノ社会学的パースペクティブは、継続的な比較分析を基本としており、これ以上新しいカテゴリーが生まれない「飽和の段階」に到達するまでケースの特徴を多様にしながら分析を行う。具体的には小児科医の年齢(勤務年数)、勤務する病院の規模や特徴、地域的な特性、支援体制の有無、遺族ケアの実施状況、他職種との連携等ができるだけバリエーションが広がるようにデータを収集する。実際にどれくらいのケース数で「飽和の段階」に至るかは分からないが、26年度はなるべく多くのインタビューを行うことにより、「飽和の段階」への道筋をつける。 分析作業はデータの収集と並行して行う。ある程度まとまりのある仮説モデルができた段階で学会発表を行う。そこでの質疑応答の内容を踏まえて仮説モデルを修正し、それを論文として査読付きの学会誌に投稿する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度は5件前後のインタビュー調査の実施を計画し、最大6件インタビュー調査を実施した場合の予算を組んでいたが、実際にインタビューを行ったのは3件であり、調査場所も全て都内であったため、旅費と人件費・謝金に次年度使用額が生じた。 また、25年度は本研究のテーマに関連する先行研究を幅広く収集するための書籍購入費を組んでいたが、想定していたよりも先行研究の蓄積が少なく、物品費に次年度使用額が生じた。 26年度はインタビュー調査を集中的に行う予定であり、調査旅費、謝金、テープ起こし代で予算を使用する。特に、調査協力者を一定数確保するためと、地域的な特性を明らかにするために、首都圏以外の病院に勤務する小児科医にも幅広く調査を行う他、成果報告および情報収集・意見交換のための積極的な学会・研究会への参加を計画しており、旅費が予定していた予算を超えることが考えられる。これについては、25年度から繰り越した次年度使用額を充てて対応する。 この他、書籍購入のための物品費、逐語録・分析ワークシート等の印刷のための消耗品費・印刷費、調査協力者との書類のやり取りにかかる郵送費、学会誌投稿費用で当初予定した予算を使用する。
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Research Products
(1 results)