2013 Fiscal Year Research-status Report
日本人の海外渡航問題と冷戦期日本のアジア外交に関する研究
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25780322
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
阿部 純一郎 椙山女学園大学, 文化情報学部, 講師 (40612916)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 渡航管理/出入国管理 / GHQ/SCAP / 極東委員会(FEC) / 冷戦 / 旅券/パスポート / 観光/旅行 / 国際関係 / 不法出国/密出国 |
Research Abstract |
本研究の目的は、敗戦後日本の対米国・アジア外交の歴史を、日本人の海外渡航問題を軸に分析することにある。本年度の研究成果は以下の通りである。 (1)国立国会図書館所蔵のGHQ/SCAP文書と極東委員会(FEC)文書の内、占領期の日本人の海外渡航や国際会議出席に関する資料を収集し、収録内容のデータベース化を進めた。また関連して、当時の出入国管理・旅券制度に関する公文書類や国会議事録、1950-60年代の「密出国」裁判の資料等を収集・整理した。敗戦後の「引揚/送還」事業に比べ、本研究領域には従来まとまった資料集等が存在せず、この作業によって今後の研究進展のための基礎固めがなされた。 (2)上記の資料を用い、占領期の日本人の海外渡航・国際会議出席をめぐるFEC内部の論争を分析した。特にGHQによる渡航審査の「差別性」を批判したソビエト代表の発言を取り上げ、この問題に対する米ソ間の対立が、広くは東西陣営の国際労働機関(「世界労連」と「国際自由労連」)の覇権争いに起因することを示した。 (3)1950-60年代に法曹界・法学会や国会・新聞各紙で議論された「密出国」裁判に注目し、そこで最大の争点となった占領末期の旅券法(1951年)の制定過程を分析した。特に以下の3点を上記の資料を用いて論証した。①GHQが一連の指令を通じて、日本人の海外渡航を含むあらゆる越境活動を監視・取締りの対象とし、「合法的な移動手段の独占」を果たしていく過程、②GHQによる「反共主義的な」渡航審査に対する国際的・国内的な批判の高まりと米国・日本政府の対応、③占領末期にGHQから日本政府へ渡航審査権が委譲される際、日本政府が米国の渡航管理制度を援用しつつ、特定の人物・渡航先への旅券発給拒否条項を旅券法に挿入していく過程、以上3点である。 なお、(2)は本年度に論文として学術誌に発表し、(3)も発表予定(掲載決定済)である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度予定していたGHQ/SCAP文書とFEC文書の収集は大部分が終了し、議事録などの基本となる文書類から収録内容のデータベース化を進めている。また、占領下の渡航管理制度の変遷についても、関係資料を時系列で整理し、GHQの指令とそれに対する極東委員会ならびに日本政府側の対応を詳細に把握することができた。さらに調査の過程で、当初は予定していなかった「密出国」裁判に関する資料類を発見・収集し、当時の「密出国者」の社会的実態について把握することができた。そして以上の成果を踏まえ、三点の論文を執筆した。 一方、GHQ/SCAP文書とFEC文書が大量にわたりデータベース化が遅れている点は、次年度以降の改善点である。また本年度収集を予定していた、日本が参加した国際会議に関する報告書類(外交史料館所蔵)も収集できておらず、早急に取りかかりたい。 以上の理由から、若干の改善点はあるが、おおむね計画通り進んでいると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
上記で記したデータベース化の作業は、作業員を増員し、今後も継続的に進めていく。また外交史料館の所蔵文書の収集にも早急に取りかかる。さらに平成26年度は、以下の2点の資料収集・分析を進める。 (1)GHQ・日本政府により海外渡航(旅券発給)を制限された共産圏の国際労働・平和会議に関する資料類、またそれに出席した「密出国者」の関係資料 (2)戦後欧米の旅券制度改革に関する資料、国際観光推進に関するマーシャル・プラン関係資料、世界観光機関の前身たるIUOTOの機関誌、国連主催の国際旅行・観光会議に関する報告書類 以上の作業を通じて、海外観光旅行解禁(1964)までの戦後日本の渡航管理制度の変遷を、「越境的な人の移動」を巡る国際的な制度改革の中に位置づけ評価することを目指す。
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