2014 Fiscal Year Research-status Report
日本人の海外渡航問題と冷戦期日本のアジア外交に関する研究
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25780322
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Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
阿部 純一郎 椙山女学園大学, 文化情報学部, 准教授 (40612916)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際観光 / 出入国管理 / GHQ/SCAP / 外務省 / 密出国/不法出国 / 旅券法 / マーシャルプラン / 占領 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究成果は以下の通りである。 (1)前年度未収集だった外務省関係文書として、外務省公開外交記録の内、占領期の日米間の文化交流・国際観光事業に関する資料群(一般旅券発給、近親者訪問、日米文化交換等)を収集した。併せて、占領期日本の国際観光事業を、同時代の国際情勢の中に位置づけるべく、戦後米国がマーシャルプラン(欧州復興計画)の一環として取り組んだ米国民の海外旅行推進策に関する資料を収集した。 (2)1950-60年代に頻発した共産主義諸国への旅券発給拒否をめぐる裁判(「密出国」裁判)を取り上げ、そこで最大の争点となった旅券法第13条(旅券発給の制限)の規定が、占領末期の旅券法(1951年)にいかなる仕方で差し込まれたかを、それ以前のGHQによる渡航管理政策や米国の国内安全保障法(1950年)と関連づけて分析した。 (3)戦後米国の欧州復興計画のうち特に国際観光事業に焦点をあて、同事業の推進機関たる欧州経済協力機構(OEEC)、官設観光機関国際同盟(IUOTO)、欧州旅行委員会(ETC)、経済協力局(ECA)、米国商務省の計画書・報告書類をもとに、組織体制、政策意図、政策効果を分析した。特に注目されるのは、戦後アメリカ人が世界最大の「消費者」としてプレゼンスを増す中で、マーシャルプランの対象国となったヨーロッパ諸国ではアメリカ人旅行者の嗜好に合わせるべく、①ホテルやレストランの「近代化=アメリカ化」、②ビザ手続きの緩和・撤廃、税関手続きの統一、③大西洋ルートの輸送力増強、航空・船舶運賃の割引などが進められたこと、さらにそれが後のマスツーリズム発展の土台を形成したことである。前年度調査した占領期日本のインバウンド観光事業の推進も、以上のようなアメリカ人旅行者を巡る国際観光マーケットの力学のなかに位置づけられる。 なお、(2)は学会誌に掲載し、(3)は研究会にて中間報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度計画していた外務省関係資料、マーシャルプラン関係資料の収集は順調に進んだが、すでに前年度に収集済のGHQ/SCAP文書、FEC文書を含め、関係資料のデータベース化の作業が遅れている。本研究のテーマである占領期日本の国際観光、文化交流事業は、先行研究も少ない未開拓の分野であるため、今後の研究のためにも収集された資料の整理・公開作業がきわめて重要になる。最終年度は、データベース化の方法も含めて再検討し、完成を急ぎたい。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる平成27年度は、以下の2点の作業を中心に行なう。 (1)占領期における日米間の国際観光・文化交流事業に関する政策展開を、前年度までに収集したGHQ/SCAP文書、FEC文書、外務省文書をもとに整理し、講和条約前に進められていた日米間の「文化外交」の実態を把握する。 (2)占領期日本の渡航管理制度や国際観光政策などの制度面の実態解明は進んでいるが、その政策効果や社会的インパクトの分析が不十分である。本年度は、当時の「密出国者」の回想録や、国際観光・文化交流事業の参加者の体験記録、観光事業者の具体的な施策内容なども分析しつつ、占領期の渡航管理体制が戦後日本の国際移動や社会意識、観光開発に与えたインパクトを評価する。
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Causes of Carryover |
外交史料館にて収集予定の外務省公開外交記録が国会図書館に一部所蔵されており、当初の計画よりも少ない調査回数で関係資料を収集することができた。また紙媒体でなくマイクロフィルムでの複写を依頼した為、計画よりも費用を低く抑えることができた。さらに当初予定していたデータベース作業員を雇用しなかった為、人件費等が発生しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度は、データベース構築を推進すべく作業員の増員を予定しているため、その謝金や物品購入費にあてたい。
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Research Products
(3 results)