2013 Fiscal Year Research-status Report
国際サミットをめぐるアクターの比較分析と理論構築に関する社会学的研究
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25780328
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Notre Dame Seishin University |
Principal Investigator |
濱西 栄司 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 講師 (30609607)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | G8サミット / アラン・トゥレーヌ / 社会運動 / 集合的経験 |
Research Abstract |
平成25(2013)年は、まず(1)日本開催G8サミット(1979・1986・1993年東京、2000年九州沖縄、2008年北海道洞爺湖)をめぐるサミット・プロテストについて新聞データを用いた従来的手法での数量分析を実施した。分析からは、抗議イシューの増加・複数化や、抗議レパートリーとその担い手との関係性の変化などが明らかになった。 その上で(2)従来的分析の方法論的限界(対象全体を一つの組織・集合行為として捉える前提がサミット・プロテストの場合は成り立たない)をふまえ、従来とは反対に「敵手」(サミット)の制度的構造に注目し、4つの批判可能性を導き出した。そして、マルチイシュー/マルチレパートリーのアクター連関自体が4つ重層化していることを明らかにし、全体を一つの組織や集合行為として前提視することの困難さを改めて指摘した。その上で、それでも現れる全体としてのまとまりを(組織ではなく)集合的経験・空間的密集として捉え直す方向性を示した(2014年度発表予定)。そこから組織中心モデルから敵手中心モデルへの転換可能性を見出した。 さらにインタビューデータ等の分析を通して集合的経験の内実を検討し、また日伊米丁における自律スペース(社会センターや自治区)の活動とその歴史的背景の分析から、空間的密集の条件を探り、政治社会学会等で報告を行った。 並行して(3)これらの実証研究(とりわけ集合的経験や空間的密集に関する研究)を社会運動論と接続するための理論学説研究も予定通り進めた。とくに後期トゥレーヌとその後継者による脱近代化論・文化運動論・経験運動論とそのアジア・日本への応用可能性について検討し、学術書や国際学会において研究発表を行うとともに、関連仏語書籍の翻訳を実施した。また外国人労働者や障害者労働者の運動に関するシンポジウムや研究会にも関わった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、(1)サミットをめぐるアクターの組織連関に関する数量分析を、日本開催5サミットに絞り、新聞データベースを用いて行うことができた。対象を絞ることで、5つのサミットそれぞれに関わる多様な抗議アクター(労組、NGO、住民、若者など)を実証的に把握することができただけでなく、さらに抗議レパートリー(対抗サミット、直接行動など)と、抗議イシュー(労働、規制、開発、人権、環境など)についても、その実態と変化を明らかにすることができた。 また予定通り(2)直近の日伊米丁サミットにおいて活用された自律スペースと現地でのアクションの空間的配置について分析を行い、<時間・空間的に限定されている>というサミットの特徴がそれらの配置にもたらす影響について検討することができた。さらに聞き取り調査の成果もふまえることで、従来の抗議主体中心モデル(対象が一つの組織的主体であることを前提としてその多様なメカニズムを分析する)に対して、敵手中心モデル(敵手・問題が担う受益受苦構造から運動の分裂を指摘した上で、分裂を超えてまとまりが生まれるメカニズムを探る)を提起することができた。 (3)研究成果の理論化の面でも、予定通り、後期トゥレーヌ理論の学説的検討を行い、そのアジア・日本社会への応用可能性を明らかにすることができた。さらに翻訳作業等を通して、集合的経験や空間的密集という概念をより包括的に理論化するアイデアを得ることができた。 以上より、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)新聞データベースを用いたサミット・プロテストの組織論的分析(アクター・イシュー・レパートリー)の有効性が確認できたことをふまえ、日本開催サミットだけでなく、他の社会でのサミットについても、海外新聞データベースを用いて分析を進めていくことにしたい。とりわけG8サミットに焦点を当て、1976年から現在に至る抗議の変化を明らかにしていく。データベースについては、The Times Digital Archive 1785-2008は既に使用可能だが、他のデータベースも使用できるようにする必要がある。 次に(2)仮説的に見出だした敵手中心モデルの検証を進めていく。まずインタビューデータ、フィールドデータを整理し、集合的経験に関する分析を行っていく。その際、すでにデータの存在する2008年G8サミットについてまず分析を進め、並行して過去の日本G8、及び伊米丁サミットに関するデータを収集する。また自律スペースとアクションに関する地理的データを整理し、当該地域・社会のデータと関連させつつ、空間的密集に関する分析を進める。2009年の米G20、伊G8、丁COP15に関してはすでに分析を行っているが、2008年以外の日本開催G8については改めて空間的データを収集する必要がある。 最後に(3)実証研究から導き出した成果を理論化する作業としては、まず集合的経験に関して経験運動論や「経験の空間」論の検討を行い、また空間的な制約のもとで集合的現象が現れるメカニズムについては集合行動論や群集論も含め検討していく必要がある。また、サミットの制度問題に関する政治学や国際関係論の最新の成果や、受益圏受苦圏論や福祉レジーム論に関する検討も引き続き進めていく。
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Research Products
(6 results)