2013 Fiscal Year Research-status Report
戦後児童福祉実践における「児童の権利」思想に関する研究
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25780345
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tohoku University of Community Service and Science |
Principal Investigator |
竹原 幸太 東北公益文科大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (30550876)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 児童福祉法 / 児童の権利 / 菊池俊諦 / 菊池文庫 / 田子一民 / 生江孝之 / 石原登 / 教護院 |
Research Abstract |
本年度は第一に、菊池俊諦の戦後児童福祉活動及び児童福祉関連資料の基礎的調査を行った。具体的には、石川県社会福祉協議会、石川県立図書館で戦後の石川県児童福祉事業における菊池の業績を調査し、矯正図書館「菊池文庫」(東京)、安専寺「菊池文庫」(石川)では菊池の戦後の手書き原稿を収集した。 第二に、菊池の「児童の権利」論に影響を与えた田子一民、生江孝之の戦後社会福祉活動及び児童福祉関連資料の基礎的調査を行った。田子については、没後50周年を記念して盛岡市先人記念館で開催された講座「家族から見た田子一民」に参加して戦後の田子の社会福祉活動の聴き取りを行い、岩手県立図書館で『新岩手人』、『東北公論』等の郷土誌に収録された田子の論文を収集した。生江については、同志社大学図書館(今出川)に所蔵される「生江孝之文庫」において、教護関連資料を収集した。併せて、同大学図書館(新町)にて1946年から1960年までの中央社会事業協会『社会事業』を閲覧し、戦後初期の児童福祉関連の論文を収集した。これらの調査より、田子、生江は戦前社会事業との比較から戦後社会福祉事業へ助言を述べていたことを確認した。 第三に、菊池と共に戦前の少年教護実践を支え、戦後も活躍した石原登ら教護関係者の基礎的調査を行った。石原については、戦後初期に執筆した『教護院運営要領』(基本編・技術編)を検討しつつ、初代院長を務めたきぬ川学院(栃木)に訪問し、職員から同院での石原の活動等について聴き取りを行った。その他、武蔵野学院三代目院長青木延春や日本少年教護協会理事相田良雄に関連する資料を矯正図書館で収集した。 以上の調査と並行して、社会事業史学会、司法福祉学会、社会教育学会等の学会へ参加し、本研究と関連する情報を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
菊池俊諦の戦後児童福祉活動及び児童福祉関連資料の基礎的調査を予定通り行うことができた。安専寺「菊池文庫」の資料調査は次年度以降も継続課題であるが、本年度は石川県社会福祉協議会職員の協力により、石川県社会福祉会館に所蔵される『民生石川』(後に『石川の社会福祉』へ改題)から新たな菊池の論文を発見することができた(「児童憲章の歌」『民生石川』N0.20、1952)。 また、次年度以降に調査予定であった田子一民、生江孝之、石原登等に関する調査も着手できた。とりわけ、田子に関しては、盛岡市先人記念館での田子没後50周年記念講座を通じて、遺族から田子の人物像に関する聴き取りを行うことができ、田子が所蔵していた社会事業関連資料の多くが戦中の空襲で消滅したこと等を知ることができた。 さらに、石原登を知るきぬ川学院職員への聴き取りから、石原は特定の誰かから影響を受けて実践を展開している印象ではなかったこと等、文献情報を超えた人物像の一端を知ることができた。 ただし、複数の調査を並行して展開する形となったため、それぞれの調査のつながりを明確化していくことが次年度以降の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究作業を整理し、戦後児童福祉法制下での「児童の権利」思想の内実とその展開について検討していく。 第一に、戦後児童福祉法制定期に出版された児童福祉関連文献と菊池俊諦、田子一民、生江孝之ら戦前の「児童の権利」論者の児童福祉観・「児童の権利」観の比較検討を通じて、戦前児童保護と戦後児童福祉との「児童の権利」思想の連続性について検討する。 第二に、戦後の教護実践における「児童の権利」思想について検討する。本年度の調査からは、戦後の教護実践では1950年代後半以降、「児童の権利」への言及が少なくなり、1970年代に教育法学界で教育権保障が叫ばれる中で、児童福祉法48条との関連で教護院における学校教育保障が論点となり、再び「児童の権利」が叫ばれたことを確認した。ただし、戦前少年教護実践においては、少年教護院は「学校教育以上に教育化」が必要であるとの議論から「児童の権利」が主張されたのに対し、1970年代以降は教護院内での学校教育保障との関連で「児童の権利」が主張され、戦前とは異なる文脈で「児童の権利」が再浮上したことが仮説として成り立つ。この仮説を基に、戦前と戦後の教護実践の「児童の権利」思想に連続性が見出せるのか否かを検討する。
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