2014 Fiscal Year Research-status Report
ハンセン病回復者における「当事者性の不在」を通した福祉実践の課題に関する研究
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25780346
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Research Institution | Higashi Nippon International University |
Principal Investigator |
新田 さやか 東日本国際大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (50584629)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 社会福祉関係 / ハンセン病問題 / 当事者性 / 福祉実践 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は1)患者運動および療養所の入所者自治会活動に携わってきた当事者への聞き取り調査、2)ハンセン病隔離政策下における福祉実践の限界と課題の整理、3)韓国におけるハンセン病回復者をめぐる現状把握に取り組んだ。 1)については、現在、療養所入所者自治会会長を務める3名の当事者に対し、①入所者自治会が患者(当時)たちの生活改善や生活保障に対して果たした役割、②入所者自治会活動に参加するきっかけ、③自治会の経験が自身の生き方に与えた影響、④自身が置かれた状況をどのように捉えていたのか、⑤これまでの人生をどのような思いで生きてきたのか、という点についてインタビューを行った。聞き取りを通して、入所者自治会は入所者の医療や生活を守る基盤として存在し、それは現在の在園生活においても共有されている認識であること、入所者自治会や全患協運動への関わりは、療養所において主体的な役割をもって生きることにつながってきたこと、療養所外でのさまざまな患者団体との連帯関係が全患協運動の展開過程には深く関わっていることなど、個人のライフヒストリーとともに既存資料に書かれている内容を実証するデータを得ることができた。 2)については、ハンセン病隔離政策下における福祉実践の限界と課題をとらえるための枠組みとして、『ハンセン病問題に関する検証会議最終報告書』の「福祉界の役割と責任」で明らかにされた内容をふまえ、ハンセン病隔離政策を通史的にとらえるなかで①宗教家による救済事業期、②国、民間団体による「療養所」への患者の囲い込み期、③戦後の療養所中心主義のなかでの福祉的支援、④「らい予防法廃止以降」という4つの時期区分を設定した。 3)については、韓国の疾病管理本部が発行している「2014ハンセン事業指針」から、現在の韓国におけるハンセン病患者および回復者に対する事業の概観、定着村運営について現状を把握することに努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、昨年度から継続する課題として患者運動に携わった関係者への聞き取りを中心に研究をすすめ、3名の入所者自治会会長に対して聞き取り調査を実施した(2014年9月、12月、2015年3月)。また、韓国のハンセン病回復者に関する調査については、聞き取り調査の枠組みを検討することを課題とし、「2014年ハンセン事業指針」に示された、韓国におけるハンセン病事業の概要およびハンセン病回復者に対する社会福祉事業、定着村の運営状況について把握することに努めた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでに聞き取り調査を行った4名の当事者のライフストーリーインタビューを分析し、隔離政策という患者を抑圧する社会の仕組みや社会の偏見・差別の眼差しに翻弄されながらも患者たちが運動を通して主体的な生の可能性を見出そうとしていたことを論証する。また、ハンセン病隔離政策下における福祉実践の限界と課題については、設定した時期区分ごとに福祉実践の役割と課題を抽出する。韓国調査については、2016年2月~3月頃をめどに社団法人ハンビッ福祉協会への聞き取り調査および定着村への訪問調査を実施する。
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Causes of Carryover |
今年度予定していた韓国のハンセン病回復者支援団体であるハンビッ福祉協会への聞き取り調査を延期したこと、それに伴う調査協力者への謝金支払いが変更となったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年2月~3月をめどに韓国調査を実施し、調査旅費および現地での調査協力者(通訳)への謝金として使用する予定である。
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