2014 Fiscal Year Research-status Report
人生の最期に向かう沖縄戦体験者との「見える物語綴り法」の共創に関する探索的研究
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25780437
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Research Institution | Okinawa University |
Principal Investigator |
吉川 麻衣子 沖縄大学, 人文学部, 講師 (80612796)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 戦争体験者 / 沖縄戦 / 見える物語綴り法 / 共創 / ナラティブ / ライフヒストリー / 自分史 / 地域心理臨床 |
Outline of Annual Research Achievements |
人生の最期を迎えようとしている沖縄戦体験者の自発的な語りを主軸として,「見える形で」自分史を整理できる方法(映像や写真,絵を用いた方法)を開発し,その効用について検討することが本研究の目的である。本年度は当初の計画通り,「見える物語綴り法」の実践を中心に行った。実施人数の把握のための調査を行ったところ,沖縄県内7地域で実施している「戦争体験を語らう会」参加者77名中50名から実施希望があった(2013年3月)。 1.7地域で実施希望者向け説明会を実施した(2014年4月)。希望者が予想よりも多かったため,随時個別面談を行い,ニーズの聴き取りと実施可能性を探った。 2.個別対応の要望が特に強かった15名と「見える物語綴り法」による自分史作りを実施することとした。その他の希望者は来年度以降の実施,あるいは「語り合い」の中での集団実施を試みた。個別対応の15名全員が寝たきりの暮らしをしており,ベッドサイドでの関わりとなった。 3.15名のニーズはそれぞれ異なるが,いずれも写真と動画を用いた手法を希望された。筆者が各人の自発的なナラティブを聴き取り,ナラティブに沿った写真と動画を現場で入手して当人に確認を取るという作業を繰り返した。戦前の語りから始まり,戦中の頃になると沖縄戦で亡くした大切な人との想い出が語られた。事実検証的な聴き取りではなく,当人の内的体験も含めた語りを支援した。効果検証は2015年度に行うが,視覚媒体を併用する方が記憶の想起,情動の再体験が促進された。それに伴う心理的影響には臨床的配慮を行った。 4.2,3週間に1回のペースで15名と18~35回実施した。うち3名が実施途中に逝去され,4名は一通り語り尽したということで,本人より終結の申し出があった。本実践は,回数に制限を設けず行われるため,来年度も実践を続けることになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.2013年度に実施した「サブテーマ①-1:戦争体験を語ることの意味の概念的探索」,「サブテーマ①-2:戦争体験を語らう会参加者のデータ再分析」は,来年度中に雑誌論文として投稿する。また,「サブテーマ②:語ることの意味と関連要因との検討およびニーズ把握」については,結果分析を終え,サブテーマ③に活用された。
2.「サブテーマ③:『見える物語綴り法の共創』の実践」は,2013年度より前倒しで実施開始した1名(病気のため2014年度での実施が難しい方)を含めた15名に対して約300回の実践を行った。ただし,15名中8名は2015年度も継続することとなった。研究者主導ではなく,実践希望者のタイミングで実践を開始・終結することを本研究の実践的意義として重視しているからである。
3.実践を終えた7名については,「サブテーマ④:『見える物語綴り法』の効用に関する実証的検討」を行った。このサブテーマは2015年度に実施予定であったが,逝去される前に実践の効用について当事者とその家族から評価を得た。上述2.の点も含め,本実践の性質上,それぞれのテーマを遂行する時期が当初の計画より前後するのは,実施前から予想されていた課題である。そのため十分対処することができたと判断する。なお,逝去された3名からは,生前に研究成果の公開について承諾を得た。 これらの点において,研究の到達度はおおむね進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
1.ホームページでの成果発信について 研究計画を立案した時点では,研究成果発信のためWebページを作成することを予定していた。2013年度の文献研究および質問紙調査を終えた時点でもその方針は変わらず,Webページ作成を進めていたが,本年度の実践を遂行する過程で,本研究(とくに実践部分)は,研究倫理の観点からWeb上での成果発信は難しいと判断せざるを得なくなった。そのため,研究計画を変更し,成果は研究論文で発信することに努め,2015年度以降のできるだけ早い時期に図書出版を進めていきたいと考えている。
2.実践の終了時期の見通しについて 本研究は,参加者のタイミングで終結することを実践的意義として掲げている。そのため,「サブテーマ③:『見える物語綴り法の共創』の実践」と「サブテーマ④:『見える物語綴り法』の効用に関する実証的検討」を全員がどの時点で終えられるかの見通しを立てることは難しい。実施を終了した方々の所要時間から鑑みると,1名に要する時間はおよそ50時間を超えている。1日に複数名実施しているが,それぞれの自宅を移動する時間も要する。研究参加者の個々のニーズに即した方法論での実施は,予想以上の時間を要している。本年度はエフォート内で研究を遂行することは難しく,オーバーワークになっていた。よって,実践継続となった8名のうち,来年度前期までに終了した者のみを効果検証の対象とし,終了できなかった者は実践を継続するが,効果検証の結果には含めないこととする。この点に関しては,スーパーバイザーの学術的助言指導を受けながら遂行していきたい。
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Research Products
(2 results)