2014 Fiscal Year Research-status Report
19世紀後半郷学における共通教養教育の構想の変容過程に関する研究
Project/Area Number |
25780463
|
Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
森田 智幸 山形大学, 大学院教育実践研究科, 准教授 (70634236)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 郷学 / 公教育 / 学習結社 / ネットワーク / 地域 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は以下の作業を行った。 (1)明治初期神奈川県における郷学設立事例の史料を横断的に分析した。まず、史料上の特質として、設立申請時の書類に設立の理念が記述されていることが明らかになった。「学制」以後の申請においては、県の示した学則に対して準拠しているか否かについてが問われていたため、設立の理念は記述されない。それに対して「学制」以前の事例については、設立申請時の理念が冒頭に記述されていることが特徴である。次に、その理念の内容についての分析を始めている。これらの理念には、主に、どのような社会を想定していたかに関するビジョンの側面、どのような内容の教育が必要かという教育内容の側面、また、どのような方法の教育が必要かという方法の側面、さらには、だれを対象としているのかという対象の側面が描かれている。現在、この4点に着目したときに見えて来る、設立趣意書の言説上の特徴を明らかにしている。最後に、こうした設立趣意書の言説上の特質が、「学制」を経てどのように変容するかを描くため、時間軸での史料の収集を始めた。 (2)岡山県における興譲館の設置事例について、史料収集を行った。興譲館は、近世において設置された郷学であり、地域の教育機関として、明治期以後も存続した。こうした時間軸において検討できる事例は、まだ多く見つかっていない。(1)の神奈川県に関する事例が、本研究の実績の中心となるが、岡山県での事例は、時間軸での分析の補助線としての役割をもたせて検討をすすめている。 (3)明治初期富山県における学習結社の設立と、そこでの雑誌の作成について、文章の検討を行っている。海内の論稿が多く残されており、雑誌の言説とのかかわりを現在分析している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
事例に関する史料を、現地への収集だけでなく、複写を通して多く収集することができた。 これらの分析も進んでおり、報告書としてまとめていきたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、地域の共通教養の構想とその学習の様相の検討にある。史料を収集する過程で、学習の様相以上に、教養教育の機関の存続をめぐって争点となる事項の変遷も見えてきた。設立当初は社会の構想を掲げることが第一であったのに対して、内容や水準に関する記載が多くなる。こうした変遷は、一般教育の理念の変遷を、言説レベル、史料上において解釈する上で有意義である。今後、いかに学習していたのかだけでなく、学校の機能の変遷についても検討をすすめる。 具体的には、以下の三点である。 第一に、明治初期神奈川県における設立趣意書の横断的分析を論文にまとめることである。神奈川県の事例は、県官の説諭をきっかけとし、その応答として設立されたものである。これらの事例は、その点において、一つの共通のきっかけで設立された事例である。共通のきっかけをもった各地域の設立に携わった人々が、何を構想したのかについて、明らかにする。 第二に、岡山県興譲館の事例について、岡山県から各教育機関への布令、通達類を含めて検討することである。今年度、これらの史料を、都道府県史から収集できた。都道府県史で明らかになっていることを一つの軸として、興譲館の応答とその変遷を明らかにしたい。 第三に、富山県における学習結社の事例を明らかにする事である。第一の事例、第二の事例とことなり、この事例は、雑誌という媒体を使い、言説空間をうみ出そうとしていたことが特徴である。郷学の事例からは、少し違う側面が見えてきた。そのため、第一、第二の事例の検討を中心として進めるが、こちらの雑誌の分析も、同時に進めたい。
|
Causes of Carryover |
以下の二点が主な理由である。 史料収集に際して、複写による請求が多くできたため、旅費の消費が少なかったこと。 また、学会での報告の数が予定よりも少なかったこと。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越した使用額については、研究会や学会での報告、また、周辺史料の収集に使用する計画である。
|