2013 Fiscal Year Research-status Report
生涯学習を通じたコミュニティ・エンパワメントモデルの開発
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25780467
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
荻野 亮吾 東京大学, 教育学研究科(研究院), 特任助教 (50609948)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | コミュニティ / 生涯学習 / 社会関係資本 / 社会的ネットワーク / 中間集団 / 関係基盤 / 社会教育行政 / 地域活動 |
Research Abstract |
地域住民に地域活動への参加や行政との協働を求めるコミュニティ・ガバナンスが推進されている中、その基盤となるコミュニティ形成の方策について、生涯学習の観点から理論的・実証的な検討を行うことが本研究の目的である。 本年度の研究では社会関係資本という観点を設定し、地域活動に関わることを通じて住民の社会関係と認知構造に変化が生じ、コミュニティが形成される過程を理論的・実証的に明らかにした。まず、社会関係資本と社会教育・生涯学習の関係についてレビューを行い、これまでの研究では社会関係資本を地域の集合財として捉える視点が希薄であったことを明らかにした。そして実証的研究を進める際の、社会関係資本の分析のレベルの設定、社会的ネットワークへの注目、資本としての特性への着目、動態的な概念としての捉え直しという論点を提示した。 次に上記の論点に沿った実証的研究を行った。まず大規模社会調査を用いた二次分析では、所属する中間集団の種類によって社会的ネットワークや地域活動への参加の状況が異なることを明らかとした。この分析に加えて、長野県飯田市と大分県佐伯市の地域活動の事例研究を行い、各地域でコミュニティが形成されるメカニズムを描き出した。飯田市では、地域の中間集団という「関係基盤」の重層性が高く、このことが地域の社会的ネットワークをより強固なものにし、地域活動に関わる住民を継続的に確保することに役立ってきた。佐伯市では学校支援に関わる会議を組織することで、多様な社会的ネットワークを持った中間集団の代表者間の関係を形成し、既存の「関係基盤」の「連結性」を強めようという政策を実施している。この中間集団という「関係基盤」の創出や、集団の関係の組み替えという点は、社会教育行政の重要な役割であると考えられる。 以上の研究に加えて、大学や公共図書館を中心とした地域の社会的ネットワーク形成についての研究も進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、研究計画の中核である生涯学習を通じたコミュニティの形成について、理論的・実証的研究を着実に進めることができた。特に、(1)社会関係資本と生涯学習の先行研究のレビューから、社会関係の組み替えの中で住民の認知構造が変化し、地域活動の参加へとつながっていく様子を分析するための枠組みを設定できたこと、(2)この分析の枠組みに基づいて、地域活動への参加や社会的ネットワークを規定する要因について、社会調査の計量的分析を行えたこと、さらに(3)これまで継続的に調査研究を行ってきた事例の分析を行い、社会的ネットワークの基礎をなす関係基盤の重層性や連結性という観点から、コミュニティ形成の道筋を示せたこと、という3点において、当初の計画以上の研究成果を挙げることができた。 なお、事例研究については、本年度得られた知見が地方部特有のものであるか否かの検証が必要であるため、都市型のコミュニティ・エンパワメントモデルの研究にも着手している。また、成人学習理論の整理と実践的な応用可能性については、サービス・ラーニングとナラティヴ学習に関するレビューや事例研究も始めている。 これらの研究の進捗状況を総合的に判断した結果、当初の計画以上に研究が進展しているものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、本年度の研究成果を学会等で積極的に発信するとともに、都市型、地方型のコミュニティ形成についての比較研究を進めていきたいと考えている。まず地方部の自治体に関する研究では、これまで研究対象としていた自治体のフォローアップ調査を実施し、生涯学習を通じたコミュニティ形成について、構造的要素だけでなく認知的要素にも注目して分析を深めていくことにする。また、都市部の自治体においては、行政と大学、NPO等が協働する事例の分析を通じて、地方部の自治体とは異なるコミュニティ形成の道筋を描くことにしたい。特に協働の目標の設定の方法、行政組織・コミュニティ組織の編成のパターン、そして官民協働の評価の方法等に注目する。 さらに、成人学習の知見に基づいた実践的なプログラムの研究開発にも取り組むこととしたい。具体的には、サービス・ラーニングの理論、ジェロゴジー(高齢者教育学)、ナラティヴ学習に関する議論の知見を整理し、この知見に基づいて、住民が学習を通じて地域活動に関わっていくためのプログラムの編成を行い、その効果の検証を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、事例研究を研究の中心に設定していたため、物品費30万円、旅費60万円、人件費・謝金30万円、その他10万円という内訳で予算計上を行った。実際の研究においては、これまでの調査結果の分析とそのフォローアップ調査によって、事例研究を大きく進めることができたため、旅費は当初予定より抑えられることとなった。その代わりに調査資料の整理やインタビューデータの筆耕に対する謝金が予定より多くなった。総支出額はほぼ予定通りだったが、旅費を抑制した分、次年度繰り越し額が生じた。 平成26年度は、平成25年度の研究成果の自治体へのフィードバック、研究成果の学会等での公表、そして都市型、地方型のコミュニティ形成についての比較研究を進めるために、出張旅費・調査旅費を40~50万円程度と想定している。また、調査資料の整理やインタビューデータの筆耕等の謝金については、10~20万円程度と想定している。さらに、成人学習の知見に基づいた実践的なプログラムの研究開発に取り組むために、サービス・ラーニングの理論、ジェロゴジー(高齢者教育学)、ナラティヴ学習に関する議論のレビューを行う。このため、関連書籍・論文の購入のための物品費を20~30万円程度と想定している。その他の諸経費と合わせて、概ね100万円程度の使用額を想定している。
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Research Products
(12 results)