2013 Fiscal Year Research-status Report
小学校教諭の書字能力形成と文字論に関する歴史的研究
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25780486
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tokyo University of Social Welfare |
Principal Investigator |
鈴木 貴史 東京福祉大学, 教職課程支援室, 副主任 (10588809)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 書字教育 / 教員養成 / 小学校教師 / 習字 / 書道 / 書写 / 国語 / 教授法 |
Research Abstract |
本研究は、教員養成課程において小学校教師を目指す学生の書字能力低下が懸念される現状を踏まえ、小学校教師の専門性としての書字能力の意義について歴史的に考察することを目的としている。とりわけ、書字教育が軽視される要因として、明治以降にわが国が取り入れた欧米の①教授理論、②芸術学、③言語学の影響があると仮定した。 今年度は、主に書字教育と教授理論の関係に着目して研究を進め、論文1編と学会は学会発表1回を行った。まず、「明治学制期における書字教育の分化と教授理論」『東京福祉大学大学院紀要 第4巻1号』では、学制期の「習字」と「書取」の2科目に分割された書字教育について、明治初期の教授法書および教科書の内容と教師に求められた技能を分析することを目的とした。ここでは、「書取」において、教師が読み上げる音声に基づいて文字を書く聴写を主とする教授法が求められ、暗記を中心として文字を正しく書くことが要求されたことを指摘した。こうした教授法の導入により、教師の書字能力が軽視される一つの要因となったことが確認された。 つぎに、日本教育方法学会において、「明治初期における問答教授法と書字教育」を発表し、問答教授法の導入が書字教育に与えた影響について考察した。 ここでは、音声言語を主とする教授法であった問答教授法は、日本語のもつ特徴により文字の媒介が不可欠であったにもかかわらず、教師の書字能力重視にいたらなかった要因について考察した。その要因として、ここでも文字の正しさ、すなわち正解が求められる傾向があり、文字を美しく書く能力が重視されるには至らなかったことが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、申請書の段階で書字教育と明治初期の教授理論との関係について考察する予定であった。研究実績の概要に記したように今年度の成果として、おおむね計画どおりに進んでいると考ている。 上半期において、書取と習字の教授法と比較をすることで音声言語重視の教授法が普及した背景を探ることができた。 また、下半期には、問答教授法の導入による教育方法における音声と書字との関係について着目し、音声言語だけでなく文字言語が重視されたにも関わらず書字能力が重視されなかったことについて確認することができた。 以上のことから、現在の達成度としておおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、1900(明治33)年第三次小学校令以前における習字科教授法および以後の書キ方教授法の対比を行うことで、国語科「書キ方」成立の意義について考察を試みる予定である。具体的には、明治20年代から30年代に展開されたヘルバルト主義に基づく習字科教授理論とその後の硬筆の普及に伴う高等師範学校訓導の水戸部寅松の書方教授理論に着目し、硬筆の普及に対する新たな展開について探っていく予定である。 さらにこうした硬筆実用主義の台頭するなかで、これに対する毛筆芸術主義の立場から石橋啓十郎の書字教育理論を取り上げ、水戸部との対比を行う。 こうして、実用、芸術という二項対立に拘泥することなく、書字教育のもつ意義を導く計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
資料の収集において当初の予定よりも古書購入費用が減額したことによる。その理由として、明治初期の資料は、国会図書館や各大学図書館でダウンロード可能になっており、購入せずに入手ができたことによる。 次年度は、資料として書字教育に関する教授法書および芸術教育関係の書籍を購入する予定である。 希少な資料が多いため、古書店等で購入する場合が多く、高額になる可能性がある。翌年度分とあわせてこうした費用に充てていく予定である。
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