2014 Fiscal Year Research-status Report
連立政権による現代イギリス中等学校制度改革の影響についての実証的研究
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25780503
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Research Institution | Nishikyushu University |
Principal Investigator |
青木 研作 西九州大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (20434251)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 学校の自律性 / イギリス / 連立政権 / 地方当局 / アカデミー / フリー・スクール / 学校間の協働 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、以下の3点についての調査研究を実施した。 1.地方教育行政機関への影響について実施した実態調査の分析:平成26年3月にロンドンで実施した地方当局の教育行政担当者へのインタビュー調査について詳細な分析を行った。その結果、特に、学校改善の分野においては、学校設立における市場原理の強化と、学校への改善能力の付与により、地方当局が介入する余地は縮小し、これまでの役割の見直しを迫られていることを明らかにした。この研究の成果については、日本比較教育学会第50回大会で発表し、それを基に論文としてまとめ、西九州大学子ども学部紀要に掲載した。 2.アカデミー政策についての分析:連立政権が力を入れた学校制度改革の一つとしてアカデミーの積極的な活用が行われており、その特徴や課題について前労働党政権との比較を通じて検討した。その結果、前労働党政権も連立政権も自律的な学校というアイデアには賛成している一方、地方当局の果たす役割についての考え方は異なっており、このことによって、連立政権のアカデミー政策は学校間格差ならびに多文化社会における教育の公共性の点で懸念が生じることを明らかにした。この研究成果については、日英教育学会第23回大会で発表した。 3.アカデミーへのインタビュー調査:連立政権はアカデミーの数を急速に増やしており、前労働党政権下で203校であったアカデミーは、2014年1月時点で3613校となっている 。特に、中等学校においては半数以上がアカデミーとなっている。アカデミーが急速に拡大する理由ならびに課題を明らかにするために、連立政権誕生以降にアカデミーになった中等学校を訪問し、インタビュー調査を行った(平成27年3月実施)。このインタビュー結果に対する詳細な分析は次年度に行うが、学校によってアカデミーになる事情はさまざまであり、参考になる情報を数多く得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イギリスの中等学校制度が連立政権の改革によってどのような影響を受けているかについて実証的に研究を行うために、2014年度は①地方の教育行政にどのような影響を与えているか、②アカデミー政策の特徴や課題は何か、③なぜアカデミーが急速に拡大するのかについて明らかにすることを課題とした。①については、前年度実施したロンドンでのインタビュー調査の結果を詳細に分析し、その影響を明らかにし、その成果を学会発表ならびに論文掲載によって公表することができた。②については、文献調査ならびにその分析を行い、前労働党政権との比較から特徴や課題を明らかにし、その成果を学会で発表した。③については、ロンドンにある3校のアカデミーでインタビュー調査を行い、アカデミーが急速に拡大する理由について把握することができた。したがって、「おおむね順調に進展している」と評価した。 なお、交付申請書に記載した「研究の目的」は次の通り。「イギリスでは1980年代以降、教育水準の向上ならびに多様な教育要求に対応するために様々なタイプの公費維持学校の創出が行われてきた。前労働党政権下では中等教育段階における「学校の多様化」政策が展開され、ほぼ全ての公費維持中等学校がスペシャリスト・スクールのステータスを獲得した。そして、2010年5月に誕生した保守党と自由民主党の連立政権はアカデミーの改革やフリー・スクールの導入を通じて、非効率的な官僚制の打破と自律した学校経営の促進を求める新たな学校制度を創出しようとしている。 学校経営の自由度の増大や、教師や保護者が学校を創設することにより、国や地方公共団体の教育関与の在り方や、その他の学校の教育活動にはどのような影響が現れるのか、私事性が強まるように見える連立政権の構想する教育制度において、教育の公共性はどのように担保されようとしているのかを明らかにすることが本研究の目的である。」
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については、以下の3つの方策に基づき進めていく。 第一に、2014年度に実施したロンドンでのインタビュー調査により、アカデミーが急速に拡大する理由について把握することができた。しかし、各学校によって、アカデミーになった事情は異なり、またアカデミーのステータスをどう活かしていくかについての方針も異なっていたことから、アカデミー政策による学校制度改革をどうとらえるかについては詳細に分析する必要がある。 第二に、過去2年間の研究の結果、連立政権の学校制度改革に注目する上で重要な視点としては、より大きな自由を享受するようになった学校が、自らの利益を追求するだけでなく、自律的に他の学校と協働することができる制度をいかに構築するかという点にあると考えている。そこで、連立政権が奨励している複数の学校が協働して学校の水準向上に取り組む仕組みであるマルチ・アカデミー・トラストやアカデミー・チェーンの実態についてインタビュー調査を実施することにより明らかにする。 第三に、次年度は本研究課題の最終年度であることから、連立政権による中等学校制度改革の影響についてこれまでの研究を踏まえたうえで、さらなる検討を加えまとめるとともに、学校の自律性と学校間の協働に注目しながら、連立政権が改革を通じてどのような中等学校制度を創出したかについて結論を出す。
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