2017 Fiscal Year Research-status Report
自閉症スペクトラム児の心の理論獲得のための視線の制御を用いた支援手法の開発
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25780540
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
宮寺 千恵 千葉大学, 教育学部, 准教授 (90436262)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 自閉スペクトラム症 / 発達障害 / 心理特性 / 支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、自閉スペクトラム症(以下、ASD)における心理特性を明らかにするとともに、ASD児・者に対する支援手法を開発することを目的としている。昨年度までは家族や学校などASD児者を取り巻く環境の支援について明らかにすることを目的として、ASD児童生徒の家族の支援に関する調査を行った。また、ASD児童一名を対象とした会話分析では、自然な会話場面を設定した。児童の心の理論課題や視点取得課題の成績と会話分析の結果を関連付けるとともに、会話内容の発達的な変化を検討するための研究を実施した。 当該年度は、視知覚機能の障害が顕著に認められる22q11.2欠失症候群の児童を対象とした視知覚機能の検討を行い、模写課題の実施成績などについて論文にまとめた。また、知的障害児・者の記憶特性を明らかにすること、ならびにその支援方法を明らかにすることを目的として、通常の小学校ならびに特別支援学校において対連合学習課題を実施した。その結果、記憶課題の遂行成績において、知的障害特別支援学校の生徒の中には小学生と同程度の成績を示す生徒と、それより低い生徒がいることが示された。成績に応じて群分けをして分析を進めるとともに、成績の低い群において絵を付随させた課題を実施した。絵による支援を行ったところ、成績の低い群においても定型発達児と同程度の成績を示した。 以上のことから、当該年度においては、様々な形で支援を必要とする発達障害児・者における心理特性を明らかにすること、支援の方法について基礎的な知見を積み上げることを目的として研究を進めた。ASD児の会話分析をはじめ、知的障害児・者の記憶課題に関する結果については、今後論文にまとめ、発達障害児・者に対する支援の在り方に関連させていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、視知覚機能の障害が顕著に認められる22q11.2欠失症候群の児童を対象として、摸写課題を実施した。対象児童の視知覚機能に関して知的障害児童と比較検討を行い、論文にまとめた。視知覚機能の障害はASD児童にも認められることが多く、学校生活においても困難を示すことが多い。そのため、視知覚機能の障害について詳細に検討することは、今後のASD児者に対する支援の方向性を検討するために必要であると考える。 また、2017年度は知的障害児・者の記憶特性を明らかにすること、ならびにその支援方法を明らかにすることを目的として、通常の小学校ならびに特別支援学校において対連合学習課題を実施した。学習する単語に視覚的なイメージを付加するなどのトレーニング効果を検討し、成果を得た。これらのことから、当該年度に予定していた課題を遂行することができたと考えた。 しかしながら、ASD児童を対象とした研究については会話分析の詳細な分析が未実施であること、さらに今後は論文において結果を報告する必要がある。この結果は心の理論課題の遂行結果と関連付けることで支援の方向性を示唆しうると考える。これらを踏まえて、今後はASD児者に焦点を当てた課題を実施する予定である。この課題の実施とと支援の検討に関しては、計画を精査し、実施可能性を深めるために少し時間を要するため、計画より少し遅れている。 以上のような進捗状況のため、研究全体の状況としてはおおむね順調とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度における研究の推進目標は、(1)昨年度までに得られた研究の結果を論文にまとめること、(2)ASD児者の心理特性の検討と支援の在り方に関する検討を進めることである。(1)に関しては、ASD児童における会話分析について評価者を複数設定して厳密な分析を行うとともに、心の理論課題等の客観的な課題との関連を検討する。自然会話場面における会話内容の発達的な変化について客観的な指標を用いて検証することで、会話を含めたコミュニケーションに関する支援の方向性について検討を進めたい。それらの結果については、論文としてまとめて発表する予定である。また、対連合学習課題を用いた知的障害児者の記憶特性に関する研究について、2017年度までに研究の実施を完了したため、結果をまとめる。視覚的なイメージを付加した条件で課題を行うことで、課題の遂行成績が上昇したことから、知的障害児者に対する学習支援の方向性を検討することができると考える。 (2)に関しては、ASD児者を対象として、彼らの心理特性に関する基礎的な知見を得るための課題を行うとともに、それらを踏まえて支援の在り方を検討する。当初は、心の理論課題に焦点を当てた検討を計画していたが、心の理論課題に限らず対人関係に必要なスキルの支援へとつながる研究を予定している。例えば、言語を用いたソーシャルスキルトレーニングの実施、コミュニケーションの基盤となる視線や表情の理解の促進を目指した支援の実施などである。 以上のように、発達障害児者を対象とした複数の研究を行い、それぞれの知見を踏まえて、今後の支援の方向性を検討することを目的として進めていく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、2016年度末まで産前産後休暇ならびに育児休業で研究を中断しており研究実施の延長を申請したためである。 2018年度の使用計画としては、実施した課題の分析を行うために年度初めにパソコンを購入する予定である。また、執筆した論文の英文校閲を依頼するための費用として助成金を使用したいと考える。執筆を予定している論文は現時点で2編であるため、それに関する英文校閲に使用したい。また、今年度は成果の発表の場として学会での発表を検討しているため、学会への参加費用として助成金を使用することも計画している。
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Research Products
(1 results)