2013 Fiscal Year Research-status Report
養護学校義務制実施期における重症心身障害児教育実践の成立と構造に関する歴史研究
Project/Area Number |
25780542
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
河合 隆平 金沢大学, 学校教育系, 准教授 (40422654)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 重症心身障害児 / 花の木学園 / みのり学級 / 養護学校教育義務制 / 生存保障 |
Research Abstract |
本年度は、重症児への教育保障を通じて隣接する医療や福祉の関係構造の変容をとらえ、そのことが障害児の社会的支援における包摂と排除の構造にいかなる修正・変更をもたらしたのかを検討するための視点を検討した。 具体的には、京都府亀岡市の重症児施設「花の木学園」に設置された重症児学級(みのり学級)を事例として取り上げ、その教育実践にかかわる資料を生存保障の観点から整理し、日常生活やローカルな次元から包摂と排除のありようをみようとした。 本年度は花の木学園およびみのり学級に関する史料収集を中心に行い、本格的な検討は次年度以降の課題であるが、さしあたり以下の点がうかびあがってきた。 在宅生活を余儀なくされてきた重症児の施設入所は、日常生活に必要なケアを安定的に受けられるという意味で、かれらの生存を保障するものであった。しかし、重症児施設は医療的管理以外を想定した制度・施設ではなかったため、無為に「生かされる」という状態に留め置かれがちであった。 花の木学園の場合、みのり学級の設置によって、重症児の生存保障の水準は「生かされる」のではなく「生きていく」段階へと引き上げられた。みのり学級の実践は本校の亀岡小学校の教師および保護者、そして地域や行政の人びとに支えられて成り立っていたものであり、さらに「共同教育」を通じて通常の子どもたち、地域の子どもたちとの関係性を築いていた。それは施設で人生の大半を過ごす重症児にとって、社会やコミュニティへの参加の契機でもあった。革新府政の下で広がっていた不就学障害児をなくす運動のエートスが背景にあったとはいえ、養護学校(亀岡分校)開校はそうした公共性の具現化のひとつとみることができる。 本年度の研究成果の一部は、「今、「この子ら」と生きた糸賀一雄と対話する」『糸賀一雄生誕100年記念事業論文集・生きることが光になる』(2014)として発表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は当初の研究計画に即して、みのり学級の成立とカリキュラムならびに教育実践の生成・変容を検討するための史料整理を行うことができたと考える。重症児施設「花の木学園」にみのり学級ができたことで、そこに暮らす重症児の生活は大きく変化した。そのありようは「教育を含めることで、日本の福祉概念や生存概念はどのように拡張できるのか」という「生存の歴史学」が提起する課題への応答も意図するものであった。 具体的には、病棟・施設の医療・療育実践の蓄積から、発達・教育的な価値と理論を選択していく教師・学校側の認識のありようを考察するために、花の木学園の療育記録、みのり学級の指導記録および学級通信などのドキュメント史料のほか、学園関係者へのインタビューを行った。 また本年度は、みのり学級のような施設内学級の成立の背景にあった、就学をなくす運動から障害児教育権保障運動への広がりも検討した。具体的には、1960年代後半から70年代にかけて全国各地で展開された不就学をなくす運動において、障害児の教育要求をいかなるものとして把握し、障害児にふさわしい学校教育の要件をいかに要求したのか、そしてそれらが義務制実施を間近に控えた養護学校教育の内実にいかなる影響を与えたのかを明らかにするために、全国各地の不就学児童実態調査を整理し、不就学をなくす運動のひとつの典型として東京都文京区の運動を取り上げて検討した。 障害児だけではなくその教育にかかわる人びとの生存と権利の内実をも問い返し、共同性を生み出していく契機が含まれており、そこに養護学校義務制実施という政策転換を導き出したひとつのエネルギーを見出すことができた。 おもに上記二つの作業によって、花の木学園・みのり学級における重症心身障害児教育の成立過程を考察するための基本的作業ができた。次年度以降は、これを基礎にさらに検証作業を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の作業をふまえて、平成26年度は、施設・病院、在宅等の学校外の環境において展開される重症児の医療・療育・介護実践を、教師が教育実践として加工しながら、学校教育の制度と実践の内実を構築していく過程を分析する計画である。 学校教育実践の生成・展開とそこでの重症児の発達経過が、家族における養育の実態や教育観を変容させていく様相を検討することが目的となる。 ここでは、学校教育にまつわる論理や価値が重症児家族に受容されることで、家族の教育に対する心性が変容していく過程を明らかにする。とくにみのり学級の親の会の活動に注目し、医療・福祉と学校教育の双方に向けられる家族の要求が、教育実践の成立とともに変容していく様相を考察することが中心的な作業となる予定である。 また「重症心身障害」とは医学的な障害カテゴリーではなく、社会的な救済カテゴリーとしてつくり出されてくるなかで、家族によって重症児の教育要求が、医療や福祉の要求とは相対的に区別されながら、どのように形成されてきたのかを明らかにする作業を行う。 そのため、京都府の教職員組合や教育委員会が実施した教育実態調査に関する資料のほか、就学・修学の状況、子どもの健康や発達の状況等をふまえた教育人口動態を検討し、親の会による文集、陳情・請願書類等の分析、当時の保護者・関係者へのインタビュー調査を行う。対象者としては、花の木学園・みのり学級、京都府教育委員会などの関係者へのアクセスを予定している。 これらの研究成果の一部については、日本特別ニーズ教育学会第20回研究大会(茨城大学、2014年10月18-19日)において口頭発表するほか、日本特殊教育学会誌『特殊教育学研究』に論文投稿する予定である。
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Research Products
(2 results)