2013 Fiscal Year Research-status Report
大強度中性子ビームを活用した中性子散乱によるナノ空間中の分子ダイナミクスの解明
Project/Area Number |
25790005
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び東海事業センター(利用研究促進部)) |
Principal Investigator |
山田 武 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び東海事業, その他部局等, 研究員 (80512318)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 中性子準弾性散乱 / In-situ / 水 / 制限空間 / 吸着 / ダイナミクス |
Research Abstract |
H25年度は主に環境の整備を行い、所属機関の実験室に本科研費で購入したターボ分子ポンプを利用した真空ラインの整備を行った。これによって、試料の乾燥・調整が容易かつ正確にできるようになった。また、In-situ水蒸気すステムについても、J-PARC・MLFの安全プロトコルに従うように必要な改善を行うと共に、水蒸気圧の時間変化を自動的にコンピューターへ記録できるように改良を行った。 本システムを用いた予備実験として、Nafion膜に水を吸着させながら、In-situ 中性子準弾性散乱測定を行った。導入する水蒸気圧を増加させると共に、吸着量の増加に伴う中性子散乱強度の変化を測定することができた。準弾性散乱も1時間程度の時間幅で解析可能な統計が得ることができ、J-PARC・MLFの大強度ビームを活かした結果となった。ビームタイムの関係上、各圧力で24時間程度の測定しかできなかった中、RH=100%では、2種類の局在モードが存在し、時間と共に両成分とも増えていくことが分かった。これまでの平衡状態に達したNafion試料の報告では、より拡散的な運動モードの存在が示されているが、そのような運動モードは見られなかった。これは、24時間では十分に平衡に到達しなかったためと考えられる。 今回の結果は今回の測定が、圧力変化後の初期状態を観測したためと考えられる。このことから、J-PARC・MLFの大強度ビームを用いることで、ビームタイムさえ許されるなれば、初期状態から平衡状態に到達するまでをより詳細に測定できることを実証できた。 これらの結果は所属機関が主催した研究会で発表した。また、H26年度の高分子年次大会で発表を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H25年度はNafion膜でIn-Situ中性子準弾性散乱実験を行うことができたが、本来の目的であるメソポーラスシリカなど細孔性物質のIn-Situ中性子準弾性散乱測定は1度しか行うことができなかった。また、その結果も試料への水の吸着量がex-situ環境で準備したときに比べて少なく、十分な測定を行うことができなかった。これは、本科研費で改造を行い、H25年度中に行う予定だった、オフライン・常温での吸着等温線を測定する機構の整備・調整が十分に行えなかったことによる予備測定の不足によるものである。 この原因は、申請代表者が担当するJ-PARC MLFのDNA分光器のユーザー支援及びコミッショニングに想定よりも多くの時間が割かれたことにより、十分な時間を確保できなかったためである。 しかしながら、これらを通じて、H25年度中に中性子準弾性散乱実験に必要なデータリダクションに必要なソフトウエアの改造・改善、水蒸気圧力のログ収集などできるようになったことも多く、中性子準弾性散乱実験の環境は改善することができた。 また、DSCの立ち上げ、真空ラインの設置など、試料調整に必要な実験室環境の整備もH25年度中に、所属機関からも予算を手当してもらい、充実したものを整備することができた。これによって、試料の乾燥など、必要な調整が容易に行える環境となり、オフラインでの吸着等温線を測定する環境は徐々に整いつつあり、当初計画から遅れている分の挽回はH26年度には可能であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
H25年度中は中性子準弾性散乱測定環境の改善と周辺環境の改善を行うことができた。H26年度以降は、H25年度中に行うことができなかったオフライン環境での吸着等温線の測定環境の構築を前進させることを早々に行い、十分な予備測定を行えるようにする。この環境で、当初計画に記した通り、細孔表面の親水性を変化させた試料を用いた吸着等温線を測定する。更には、吸着熱の測定を目指して、吸着等温線測定システムに熱電対を設置し、吸着熱を測定可能な状態にする予定である。 H25年度中に行った、In-situ中性子準弾性散乱測定の結果から室温での吸着が平衡に到達するには数日程度の時間が必要となることが想定された。このことは、条件によっては中性子散乱実験のビームタイム中に平衡状態に到達できないことを意味するものであり、事前の条件出しが重要であることを示唆するものである。そのため、H26年度以降も上述のシステムの整備、活用による試料特性の理解を積極的にすすめる。 In-situ中性子準弾性散乱測定は、積極的に課題申請を行いビームタイムの確保に尽力する。課題申請の倍率はそれなりのものと想定されるので、これまでの課題申請書を見直すとともに、上述のオフライン環境での測定結果やこれまでの結果を理解するための解析を推進し、申請書に反映させることでより充実した申請書を作成する。また、結果の理解にはモデル解析だけでなく、MDシュミレーションなど新たな解析手法の取得、利用も行ない、当初計画に記した「細孔中の分子ダイナミクス」を明らかにする。
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Research Products
(6 results)