2014 Fiscal Year Research-status Report
大強度中性子ビームを活用した中性子散乱によるナノ空間中の分子ダイナミクスの解明
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25790005
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Research Institution | 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び東海事業センター(利用研究促進部)) |
Principal Investigator |
山田 武 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び東海事業, その他部局等, 研究員 (80512318)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 準弾性散乱 / In-situ / 水 / 制限空間 / 吸着 / ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
H26年度はH25年度に整備したターボ分子ポンプと真空ラインを用いて試料の乾燥・調整が容易にできるようになった。In-situ測定システムでは、水蒸気を発生させる水に凍結脱気した水を用いることで水蒸気圧力の精度を改善した。また、J-PARC・MLFに安全ルールに対応した安全対策を行い、温度変化測定を可能にした。しかしながら、In-situ測定を行いながら温度変化をさせるにはシステム全体の温度制御を検討する必要があり、更なる調整が必要である。 実験では、NafionとメソポーラスシリカのIn-situ中性子準弾性散乱測定を高エネルギー分解能(3.5μeV)モードで行った。Nafionを用いた実験では、相対湿度が低い領域で準弾性散乱の増加が確認された。この準弾性散乱は高湿度時にはあまり変化がなかった。このことから、吸湿初期(低湿度時)にはNafionの親水基表面に水が吸着し、高湿度になると水ドメインが形成され、観察された準弾性散乱よりも早い準弾性散乱成分が増加していると考えられる。この結果については、更なる解析を行いH27年度5月に開催される高分子学会年次大会で発表を行う。 メソポーラスシリカ試料は粉末試料であるため、レーザー加工によりメッシュ加工を施したアルミ箔に包んでIn-situ測定を行った。しかしながら、水蒸気圧を上げても準弾性散乱が確認されなかった。このことから、アルミ箔が試料によって目詰りを起こし、水蒸気が拡散できなかったと考察した。翌年度はこの結果を踏まえ、セルの形状を改良する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Nafionを用いたIn-situ中性子準弾性散乱によって、In-situ測定システムを安定的に使えるようになった。一方で、メソポーラスシリカなどの粉末試料の測定にはメッシュ加工したアルミ箔い包んで測定するという簡単な方法では難しいことがわかった。これについては、本来予備測定を丁寧に行うべきところであったが、オフライン環境の整備遅延や申請代表者のビームライン担当者としての作業がかさなり、丁寧な予備測定が実施できなかった。 翌年度に向けた予備測定を行う環境は真空ラインの整備やDSCの立ち上げなど徐々に改善しつつある。また、装置のコミッショニングも進みつつあり、申請代表者は今年度以上に充実した予備測定、試料準備ができる状態を整えている。 解析についてはMDシュミレーションを組み合わせた解析が有効であると認識はしているが、これについてはほとんど進捗がない状態である。このため、翌年度には解析環境を整備し、実施できるようにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
翌年度は細孔表面の親水性が異なる試料を共同研究者から入手できることになった。また、ビームタイムも申請が通り確保している。このビームタイムではまずはex-situで調整した試料の測定を行い、界面の親水性がダイナミクスに与える影響を明らかにする。その上で、翌年度後期のビームタイムでは、In-situ測定を行うことを計画し、界面の影響が現れやすい水蒸気量の検討を行う。また、実験室の予備測定の環境も整ってきたので、試料調整やDSC測定など行い、中性子準弾性散乱実験以外の試料のキャラクタリゼーションも積極的に行う。 メソポーラスシリカは固い細孔壁を持つ物質であるが、リン脂質、Nafion、ミセル溶液などは柔らかい細孔壁を持つ物質である。翌年度は硬い細孔壁とこれらの柔らかい細孔壁により形成された空間中の水のダイナミクスとも比較することでも、ナノ空間内のダイナミクスを解明することつなげていきたい。これらのデータの解析にはMDシュミレーションなど計算機実験が有用なので、翌年度は計算機を用いた解析にも注力し、最終年度にふさわしい成果を創出できるようにしたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由はIn-situ測定用の試料セルの設計に時間がかかったため、発注することができなかったためである。また、昨年度は一回程度の国際学会への参加を計画していたが、研究の進捗やスケジュールにより参加しなかったことも1つの理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度分の助成金と併せてIn-situ測定用の試料セルの製作に利用する。
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