2013 Fiscal Year Research-status Report
アルカンチオール自己組織化単分子膜をトンネルする電子の経路解明
Project/Area Number |
25790055
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
岡林 則夫 金沢大学, 数物科学系, 助教 (90387853)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 非弾性電子トンネル分光 / 走査型トンネル顕微鏡 / 非接触原子間力顕微鏡 / 国際研究者交流 / ドイツ |
Research Abstract |
本研究は、非弾性電子トンネル分光を用いた、表面上の二次元膜におけるトンネル電子の経路解明を最終目標とする。非弾性電子トンネル分光は、間隔が数Åの電極間を電子がトンネルする際に、間に挟まれた分子の振動モードを励起する現象を利用した分光法であり、単一分子に対しても適応が可能な超高感度分析法である。非弾性電子トンネル分光は、走査型トンネル顕微鏡を利用した方法、即ち、金属探針先端と、金属清浄表面上に吸着された分子の間に流れる非弾性トンネル電流を測定する手法が、最も再現性の高いデータを与えると考えられている。非弾性電子トンネル分光において、金属探針先端の結晶方位と原子の種類はその選択則に大きな影響を与えると考えられるものの、測定する手法がなかったので、これまでは関心がもたれなかった。 本研究では、金属探針先端の結晶方位と原子の種類を、非接触原子間力顕微鏡を用いて把握した。具体的には、非接触原子間力顕微鏡において、金属探針先端と金属表面上の一酸化炭素分子の間に働く力を、探針位置を表面に平行な方向や垂直な方向に変えながら測定した。探針を表面に平行な方向に移動させたときの力の二次元分布は、探針先端の対称性に依存して、円対称性や二回対称性や三回対称性を示すので、力の二次元分布の測定から探針先端の結晶方位が求められる。また、表面に垂直な報告に探針を移動させたときの力の大きさは、針先に基板の原子(本研究では銅原子)が吸着すると、銅原子が吸着する前の状態(針先はタングステン原子)よりも、引力が小さくなるという実験結果を利用して、針先の原子の種類を求めた。更に、これらの方法により結晶方位と原子の種類を把握した後に非弾性電子トンネル分光が行えることを確認できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、非弾性電子トンネル分光を用いて表面上の二次元膜におけるトンネル電子の経路を解析することを最終目標とするが、本研究の遂行において海外研究室と共同研究を行う機会に恵まれ、非弾性電子トンネル分光自身をこれまでにない条件で調べられることになった。その重要性を鑑みて、本研究では、二次元膜中におけるトンネル経路の解析よりも、非弾性電子トンネル分光自身のメカニズムを詳細に調べることを優先して行った。研究手法は、非接触原子間力顕微鏡により、金属探針先端の結晶方位と原子の種類を把握し、その後に非弾性電子トンネル分光を行うという、これまでに全く行われてこなかった方法である。非接触原子間力顕微鏡をもちいて非弾性電子トンネル分光を行う際に、カンチレバーの自己振動が誘発されるという困難さがあったが、カンチレバーの加振条件を最適化することにより解決できた。そして、実際に探針先端の結晶方位や原子の種類を把握した後に非弾性電子トンネル分光が行えることを確認できた。来年度以降は、これまでにない条件での非弾性トンネル分光の測定が恒常的に行えることになり、そのメカニズムの解明が格段にすすむと期待できる。また、メカニズムの解明が、本来目的とする二次元膜中におけるトンネル経路の解明へと波及することも期待できる。したがって、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
金属表面上の一酸化炭素分子に対し非接触原子間力顕微鏡により探針先端の結晶方位や探針先端の原子の種類を調べた後に、同じ一酸化炭素分子に対して非弾性電子トンネル分光を測定するという実験を、探針先端の状態を微妙に変えながら繰り返すことにより、非弾性トンネル分光と探針の状態の関係を実験的に明らかにする。次に、探針先端の状態に依存して非弾性電子トンネル分光の測定結果が異なる理由を、理論家との共同研究により解明する。既に、理論の大枠は完成しており、その枠組みのなかで、本研究で得られた実験結果が説明できるかを検証する。 本研究は、海外研究室との共同研究による成果であり、本研究の成果は共同研究先の実験装置の性能の良さによるところが大きい。既に得られている実験結果と同様の成果が得られるように、金沢大学における走査型トンネル顕微鏡・非接触原子間力顕微鏡複合機の開発をすすめる。 また、表面科学の分野で標準試料としてよく研究される金属表面上のCO分子に対して得られた、非弾性電子トンネル分光と金属探針先端の状態の関係に関する知見を発展させ、極薄膜中をトンネルする電子の経路解明へとつなげる。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
海外研究室と共同研究を行う機会に恵まれ、装置開発を一時中断したため。 海外研究室との共同研究により、既に良好な実験結果が得られている。その要因として、使用する実験装置の性能のよさがあげられる。本研究では、引き続き非接触原子間力顕微鏡をもとにした探針先端の状態の把握と、その状態における非弾性電子トンネル分光に関する研究を続けるとともに、申請者の所属する金沢大学の装置においても同様の実験が行えるように装置開発をすすめる。
|