2013 Fiscal Year Research-status Report
新規のパルス圧縮法を用いた紫外-可視-近赤外域アト秒パルスレーザーの開発
Project/Area Number |
25790064
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
吉井 一倫 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 特任助教 (90582627)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | アト秒パルス発生 / パルス圧縮 / 分散補償 |
Research Abstract |
光軸上に透明媒質を設置しその物質長を変化させることにより,光を空間的に分けること無く分散補償を行える新規のパルス圧縮法を実証し,この新規パルス圧縮法を,分子変調により発生させたバンド幅1000 THzを超える広帯域離散スペクトルに適用することにより紫外-可視-近赤外領域のアト秒パルスレーザーを発生させることを目的に研究を行った. 本研究の意義は,本手法が伝統的なパルス圧縮法が持つ弱点を克服できる点にある.まず,空間的に光を分散させる必要が無く,空間モードを高品質に保つことができる.次に,ガラスや結晶などの無垢の透明媒質のみを用いるため適用帯域が非常に広く,同時に高いダメージ閾値を有する.これらの特徴は,このパルス圧縮法が非常にシンプルかつ堅牢であり,発生するアト秒パルスの高出力化が可能であることを約束する.アト秒時間領域の非線形現象を容易に発現できると予想される. 今年度の実施計画に基づき結果以下に示す研究実績を挙げた.広帯域離散スペクトル発生を行った.励起光源レーザーを開発しパラ水素の振動ラマン遷移の断熱励起により約1000 THz (モード本数8本)の広帯域離散スペクトルを発生させた.さらに,提案したパルス圧縮装置とパルス幅測定装置の開発を行った.離散スペクトルのモードの内2410 nm から480 nmに渡る5本のモードから成るパルス光列に対し提案したパルス圧縮法を適用し,この手法が実際に機能することを実証した.同時に,パルス幅1.8 fs繰り返し間隔8.02 fsの超短パルス光列の生成に成功した. これらに関わる成果を国際会議3件,国内学会8件で報告した.このうち第34回レーザー学会学術講演会での発表が優秀論文発表賞を受賞した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は上記の目標実現のため,以下の研究計画を予定していた.1.広帯域離散スペクトル発生のための励起光源レーザーの開発とパラ水素の振動ラマン遷移の断熱励起による~ 1 PHz以上の広帯域離散スペクトルの発生とそのスペクトル強度測定.2.新規のパルス圧縮法の開発とスペクトル位相制御.3.広帯域離散スペクトル用SPIDER装置の開発とパルス幅計測. その結果,以下のような達成状況にある.1.励起光源として,波長1200 nm ECDLを開発し800 nmパルスレーザーをポンプ光としてバルク型周期的分極反転ニオブ酸リチウムを用いてパラメトリック増幅により1200 nm をパルス化させた.これと波長800 nm Ti:sapphire注入同期レーザーとを用いて液体窒素温度に保持した気相パラ水素に集光し,全バンド幅873 THzに渡る8本のモードからなるラマンサイドバンド光を同軸上に発生させた.2.スペクトル位相の制御には,1種類の正分散媒質で構成される本手法を適用した.全てのスペクトル成分の空間的なオーバーラップを保ったまま連続的に物質長を掃引するためにプレート対を対称に回転させた.パルス幅の計測には,SPIDER法を離散スペクトルに適用可能な形に拡張したもの(SPIDER-DS)を用いた.SPIDER-DSは測定した相対スペクトル位相とスペクトル強度分布からパルス強度波形を再構成する装置である.位相の計測とその結果をもとにした最適なプレート角の数値的な探索をiterativeに繰り返すことで,現実にほぼTL条件を満たす超短パルス光の生成を試みた.その結果,本手法を用いて計算的に探索した最適な物質長において,強度時間波形のピーク値がTL条件の99.3%まで回復する点を実験的に見いだした.同時に,パルス幅1.78 (+0.01) fs,繰り返し周期8.02 fsのパルス列を発生した.
|
Strategy for Future Research Activity |
上記のように,今年度中の研究により目的の一つである「新規パルス圧縮法の実証」を達成することができた.今後はこの成果を,レーザー光科学及び量子エレクトロニクス分野で世界最大級の国際会議の一つであるCLEO 2014 (San Jose Convention Center, San Jose, CA, USA, June 12 2014)にて口頭発表する予定である(採択済み).また,同成果をまとめた論文を,物理分野で最も権威のある雑誌であるPhysical Review Lettersに投稿予定である. 一方で,もう一つの研究目的であるパルス幅がアト秒領域の超短パルス光列発生はまだ達成できていない.この原因は,広帯域離散スペクトルの高次成分を十分な強度で発生できていないことにある.当初モード本数10本ほどの離散スペクトル発生を予定していたが,現在は5本程度しか使用可能なレベルにない.そこで,今後の研究推進方策として,離散スペクトルの広帯域化のための励起光源の高強度化を行う.励起光源の現在エネルギーは10 mJ程度であるが,今後最大で40 mJまで出力可能に装置を改良する.この改良により,少なくとも8本以上のモードを持つ離散スペクトル発生を目指す.8本のモードの場合,フーリエ変換限界パルス幅は約800アト秒になる. 次に,新規パルス圧縮法がよりモード本数が多い場合に適用できるように,用いる分散媒質の種類を1種類から2種類に増やす.現在の平面基板を回転させる方式から,プリズムペアをスライドさせる方式に変更する.最後に,パルス幅測定装置SPIDER-DSをより広帯域なスペクトルに対応できるよう改良し,アト秒のパルス幅の測定を可能にする.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究進捗状況で述べたように,今年度は5本のモード本数から成る離散スペクトルに対し新規パルス圧縮法の実証を行った.この場合,分散媒質の長さの制御は比較的粗い精度でも良かったため手持ちの回転ステージを使用した.そのため,当初購入を予定していた購入物品の内,「分散補償装置用 高精度回転自動ステージ(エアロテック MPS50GR)(6台×150)」の購入を見送った.また,分散媒質自身も手持ちの合成石英基板2枚で対応できたため,「合成石英基板 (4枚×20), Sapphire基板(4枚×20),CaF2基板(4枚×20)」と関連する「光学素子」の購入を見送った.これらの理由により,約2,480,000円の次年度使用額が生じた. 今後の研究の推進方策で述べたように,今後はパルス圧縮法に2種類の分散媒質によるプリズムペアスライド方式を採用する予定である.この方式にはプリズム型分散媒質と高精度な自動直進ステージが必要である.そのため,上記理由で述べたように購入を見送っていた「分散補償装置用 高精度回転自動ステージ(エアロテック MPS50GR)」は購入せず,代わりに「分散補償装置用 高精度直進自動ステージ(シグマテック)」の購入を予定している.さらに,分散媒質として「無水合成石英プリズム (4枚), CaF2プリズム(4枚)」を購入する.また,SPIDER-DS装置に関連して,測定結果をモニターするオシロスコープが新たに必要になったため,本使用額内から購入費に充てる予定である. これらはいずれも次年度前期中に全額使用を予定している.
|