2015 Fiscal Year Research-status Report
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25800033
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
見村 万佐人 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10641962)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 固定点性質 / Kazhdanの性質(T) / エクスパンダーグラフ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は,群のバナッハ空間への固定点性質(つまり,群のそのバナッハ空間へのどの等長作用も大域的固定点をもつ,という性質)に関して,1999年の Y.Shalom によるブレイクスルー以来の懸案を解決した.より詳しく述べると,Shalom は群が有限個の部分群によって「有界生成(Bounded Generation)」される,という条件下で固定点性質を部分群たちから全体の群に伝播させることに成功した(条件が群の代数的構造で記述されているため,彼は 2006年の ICM 紀要で,この手法を「代数化(algebraization)」と名づけている).この手法の肝とされてきた「有界生成」条件には,その成立がごく限られた場合を除いて期待できないという弱点があり,「有界生成」条件を仮定しない「代数化」は 1999年以来未解決であった.報告者はこの問題を肯定的に解決し,「強い代数化(strong algebraization)」と名づけた. 応用例として,単位的・有限生成が環上定義された次数が 4 以上の基本行列群(elementary group:基本行列で生成される一般線型群の部分群)やスタインバーグ群(基本行列群を商群にもつ,スタインバーグ関係式で定義される群)が,全ての有限指数 p に対し L_p 空間への固定点性質をもつことを示した.この結果は,p が 2(つまり,ヒルベルト空間のとき)は Ershov と Jaikin によって 2010年(Invent. Math.)で示されていたが,彼らの証明法を踏襲する方法では「全ての p」には拡張できない.報告者による上記「強い代数化」により初めて証明された. 本結果により,階数の上限のないエクスパンダー族(unbounded rank expanders)に関する粗い幾何(coarse geometry)への応用も与えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べたように,平成27年度の研究では 1999年以来続いてきた Shalom の「代数化」を大幅に強化することに成功した.報告者のあみ出した「強い代数化」では,条件が全て群の部分集合の間の包含と部分群の生成で記述されており,「有界生成」のようなチェックの難しい条件は出てこない.「研究実績の概要」の第二段落・第三段落で述べたように,実際この新しい手法により基本行列群の今まで知られていなかった固定点性質を示すことができ,さらに,それによりある種のエクスパンダー族が粗い幾何の意味で単なるエクスパンダー性よりも強い剛性を持つことも明らかになった.以上の結果は,本研究課題を計画した当初の枠組みを越える成果と捉えている.
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Strategy for Future Research Activity |
有限体上の特殊線型群で,次数を無限に大きくしていってできる有限群の列を考える(有限体の位数は固定した場合とこれも無限に大きくする場合で 2 通りの問題を考えられる).この有限群の列に適切な(一様有限個の元からなる)生成集合の列を与えてエクスパンダーグラフ列を構成できるか,という問題が「Unbounded rank expander」の問題であり,これは整係数非可換 2 変数多項式環上定義された(次数 3 以上の)基本行列群がヒルベルト空間に対する固定点性質をもつ(上項のように,Ershov と Jaikin の結果)から肯定的に従う. エクスパンダーの中には,「全ての一様凸バナッハ空間に対してエクスパンダー性を持つ」という「スーパーエクスパンダー」と呼ばれるものがある.V. Lafforgue や Mendel--Naor によりスーパーエクスパンダーが具体的に構成されているが,「有限体上の特殊線型群」のような基本的な対象からはいまだ構成されるに至っていない.「整係数、ないしは、有限体係数の非可換 2 変数多項式環上定義された基本行列群が(次数が十分大きいとき)全ての一様凸バナッハ空間に対し固定点性質をもつ」ということさえ証明できればスーパーエクスパンダーを有限体上の特殊線型群から構成することができる.この固定点性質を証明することを目標とする.「代数化」の部分は今までの報告者の研究のおかげで陥落したので,特定の部分群に対する相対的固定点性質を証明することに取り組みたい.
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Research Products
(13 results)