2013 Fiscal Year Research-status Report
ハミルトン系に由来する確率モデルに対するスケール極限
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25800068
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐々田 槙子 慶應義塾大学, 理工学部, 助教 (00609042)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 流体力学極限 / スペクトルギャップ / 確率的エネルギー交換モデル / 国際研究者交流 / 国際情報交換 / インド:ドイツ:フランス |
Research Abstract |
本研究は、物理現象や社会現象などの微視的な数理モデルとして得られる確率モデルから、そのマクロな性質を導出するためのスケール極限の手法を確立することを目的とすしたものである。特に非平衡状態における系のマクロな時間発展方程式を導出する流体力学極限と、マクロな揺らぎが従う確率微分方程式を導出する揺動問題を扱った。古典物理の基礎的かつ重要な系であるハミルトン系に由来するモデルを対象としており、より具体的には、ランダムな摂動を加えたハミルトン系と、決定論的なハミルトン系から極限操作により導出されるメゾスコピックな確率過程を対象とした。 本年度は、古典物理学で非常に重要な決定論的モデルである一次元非調和振動子鎖にランダム項を加えることで、非勾配型モデルに対するエントロピー法が適用できることを初めて明らかにした。この結果は、先行結果で扱われてきたモデルに比べて、物理的により自然であると考えられるハミルトン系に由来したモデルに対する平衡揺動問題を初めて厳密に示したものである。本結果をまとめた論文は、Probability Theory and Related Fields に出版された。 また、本年度は決定論的なハミルトン系に由来する確率的エネルギー交換モデルStochastic energy exchange model(以後、SEEM)についての研究も行った。このモデルに対して、流体力学極限の証明の重要なステップとなる、spectral gapの評価に関する革新的な結果を得ることができた。既存の研究ではエネルギー交換が各粒子のエネルギーに依らずに一定以上の頻度で起こるというモデルしか扱うことができなかったが、この仮定は決定論的なハミルトン系から導出されるモデルとしては不自然であり、今年度の研究によってこの仮定を外し、より自然な条件のもとでspectral gapの厳密な評価を得ることができた。本結果をまとめた論文は、Annals of Probabilityに掲載決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度、ハミルトン系に確率的なノイズ項を加えたモデルから確率熱方程式を導出することに既に成功し、論文として出版することができた。さらに、研究の目的であった、モデルの確率的なノイズを様々に変化させた時、どのような普遍的な性質が現れるかを明らかにすることについても、既にいくつもの新しい結果を得ることができている。さらに、ノイズの大きさを極限操作により0にした時に、どのような変化が現れるかについて、Ecole Normale Superieure de LyonのSimon Marielle氏らとの議論を通じて、既存の研究にはなかった新しいタイプのスケール極限の結果を得ることができた。具体的には、スケール極限においてノイズの大きさを0にする際に、ノイズの大きさを0にするスピードに合わせて、時間変数のスケーリングにも変更が必要ということを明らかにした。さらに、このスピードによって、スケール変換後に得られる極限のマクロな振る舞いが通常の拡散型になる場合と特異拡散に成る場合にわかれることも明らかにした。 もう一つの主要な研究目的であったSEEMに対する流体力学極限の証明についても、spectral gapのみならず、非勾配型モデルに対するエントロピー法について新しい証明方法についての研究が進んでいる。このモデルは、既に知られているモデルと異なり、二つの粒子間の相互作用が差分作用素や微分作用素で表現されず、積分作用素で表現されることが特徴である。そのため、非勾配型モデルに対するエントロピー法の重要なステップである閉形式の特徴付けを行うことが直接には困難である。そこで、本年度、この問題を回避するための新たな証明手法の研究を進めた結果、微分作用素の場合に帰着する手法を導入することでこの困難が避けられることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針は、まずノイズの大きさを極限操作により0にした際の振る舞いについての結果をより詳細に明らかにし、論文としてまとめる。この結果は確率モデルと決定論的モデルの関係を明らかにする上で非常に重要な新しい手法になると考えられるため、今取り組んでいるモデルにとどまらず、より一般のモデルに対してどの程度成り立つ結果なのかを明らかにしていく。特に、ハミルトン系に由来するモデルにとどまらず、格子気体モデル等の既によく多くの結果があるモデルに対しても新たな知見を与えることができるのではないかと考えられる。 また、SEEMの流体力学極限の証明に向けて、まずは閉形式の特徴付けを回避した新しい非勾配型モデルに対するエントロピー法の確立を行う。このことは、非勾配型モデルという非常に広いクラスに対する新しい手法を提供することにもなるため、幅広い応用が期待できる。この手法の確立を行った上で、まずはSEEMモデルへの適用を行い、SSEMに対する流体力学極限および揺動問題について明らかにすることがその後の目標である。 さらに、SEEMと同様に、決定論的な相互作用粒子系のメゾスコピックモデルとして導入された別のモデルに対するスケール極限についても研究を行う。このモデルは、ミクロスコピックモデルからのメゾスコピックモデルの導出が数学的に厳密に証明されている唯一のモデルであり、このモデルでマクロな方程式を厳密に導出することは非常に重要である。これらの研究を通して近年次々に提唱されているメゾスコピックモデルに対するスケール極限の理論を統一的に研究していく計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画していた国外出張について、予定よりやや期間を短縮したため。また、予定していた論文別刷り費用等がかからなかったため。 本応募研究の背景となっている確率解析を用いた大規模相互作用系の研究は、世界中で盛んに行われているが、特にヨーロッパで最も盛んであり、多数の研究集会やセミナーが行われている他、多くの優れた研究者がいる。研究協力者であるStefano Olla教授(パリ大学)やHerbert Spohn教授(ミュンヘン工科大学)、Domokos Szasz教授(ブダペスト工科経済大学)は、特に本研究分野の権威であり、こうした研究者との打ち合わせのための、ヨーロッパへの旅費や、国内外の優秀な研究者の招聘に使用する計画である。 その他、国内研究集会への参加や国内での研究発表のための旅費、論文作成や資料収集のための設備備品費、英語論文の校閲費、文具費、図書費、論文別刷費等に使用する計画である。
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Research Products
(10 results)