2015 Fiscal Year Research-status Report
ハミルトン系に由来する確率モデルに対するスケール極限
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25800068
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐々田 槙子 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 准教授 (00609042)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 流体力学極限 / 異常拡散 / 非勾配型 / スペクトルギャップ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、物理現象や社会現象などの微視的な数理モデルとして得られる確率モデルから、そのマクロな性質を導出するためのスケール極限の手法を確立することを目的としたものである。特に、非平衡状態における系のマクロな量の時間発展方程式を導出する流体力学極限と、マクロな量の揺らぎが従う確率微分方程式を導出する揺動問題を扱う。
本年は特に、非勾配型のモデルに対する流体力学極限の問題に取り組んだ。非勾配型モデルの流体力学極限の、現在(本質的に)唯一つ知られている証明手法は「勾配置き換え」と呼ばれている。この手法の鍵となるのは、「閉形式の特徴づけ」と呼ばれる定理である。この定理が「勾配置き換え」の最も困難かつ本質的な部分であり、特にミクロな系を定める確率過程の生成作用素のスペクトルギャップが系のサイズに対してどのように振る舞うかの精密な評価を必要とする。「閉形式の特徴づけ」の主張自体は、モデルの詳細によらない非常に一般的なものであるが、その証明はモデルごとに様々な工夫が必要であり、スペクトルギャップの評価もたびたび難しい問題となる。 そこで、本年度はこの「閉形式の特徴づけ」を代数的・幾何的な視点から理解し直すことで、モデルによらない一般的な主張が成立する背景を、配置空間に関するCW複体を導入することで明らかにした。また、この結果を用いて、ある種のモデルに対しスペクトルギャップの評価を用いない新しい証明を与えた。さらに、これまでd次元格子空間上のモデルに対してのみ知られていた「閉形式の特徴づけ」を結晶格子上のモデルへ拡張することに成功した。現在本結果についての論文を執筆中である。また、本結果はすでにいくつかの国際学会で発表し、非勾配型モデルの専門家から高い評価を受けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までの2年間で、いくつかの具体的モデルに対し、確率的な摂動を持つハミルトン系に対するスケール極限について成果を得られたと同時に、本年度の結果でより一般的な非勾配型モデルに対する新しい解析手法を得ることができた。一般的なモデルに対する考察は、当初の計画以上に順調に進んでいる一方、そちらに多くの研究時間を割いてきたために、具体的なモデル、特に当初計画にあったStochastic energy exchange modelなどのメゾスコピックモデルに関する流体力学極限については、まだ十分な結果が得られていない。そこで、全体としては概ね順調であるが、一部当初計画とは違う方向へ発展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の計画は、まず、本年度得られた一般的な手法が、具体的にどのようなモデルにどの程度適用可能かを明らかにしていく。特に、ハミルトン系により与えられたミクロモデルに対するメゾスコピックなモデルとして得られている2つの確率モデルについての研究を進めていく予定である。その中で、必要があれば本年度得られた一般的な手法そのものをさらに拡張し、さらに適用範囲の広い手法を確立することを目指す。また、結晶中の原子分子のモデルとして重要な、1次元調和振動子に周期的な位置ポテンシャルを加えたモデルについても研究を行い、なんらかのマクロなふるまいの導出を目指す。このモデルは特に無限系に対するGibbs測度の存在も明らかではなく、その構成から始める必要があるが、その手法についてはすでに方法のめどがついており、一定の成果をあげることができると思われる。
確率的な摂動を加えた1次元調和振動子に対するスケール極限により、マクロな系のエネルギーの異常拡散が導出されることが近年大きな注目を集めている。これに関連し、どのような摂動が異常拡散を導くのか、また非調和振動子からも異常拡散が導出されるのか、など重要な問題がいくつも残っている。こうした問題にも、これまでの本研究の結果を用いて取り組んでいく計画である。
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Causes of Carryover |
育児のために、当初予定していた海外出張の回数が減ったため。また、近距離の大学に所属する研究者との研究打ち合わせが多くなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
育児のため、自身の海外出張が難しくなったため、海外からの研究協力者を招聘し、国内で議論することによって研究を推進していく予定である。そのために、次年度には多くの費用が必要となる予定である。
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Research Products
(4 results)