2014 Fiscal Year Research-status Report
周期的シュレディンガー作用素のスペクトラルギャップの解析
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25800085
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Research Institution | Maebashi Institute of Technology |
Principal Investigator |
新國 裕昭 前橋工科大学, 工学部, 講師 (90609562)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | カーボンナノチューブ / スペクトル理論 / シュレディンガー作用素 / 量子グラフ / スペクトラルギャップ / 周期ポテンシャル / 微分方程式論 / 関数解析学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度は「(II) Zigzag nanotube 上のシュレディンガー作用素のスペクトル理論について」のテーマにおいて当該研究課題内容の一部を含む研究成果が得られた。本研究課題は,カーボンナノチューブのひとつであるジグザグナノチューブの構造に付随した量子グラフ上のシュレディンガー作用素のスペクトル理論を調べることである。この課題に関して本年度形になったものとしては, 数学誌 「Integral Equations and Operator Theory」(i) ,「Opuscula Mathematica」(ii),「Journal of Applied Mathematics and Computing」(iii) に掲載あるいは掲載受理された3つの論文が挙げられる。また,現在投稿中のもの(iv)と投稿準備完了の状態の論文(v)が1編ずつある状況である。本年度は,(ii)の内容に関してストックホルム大学や国内の研究集会において5回の口頭発表を行った。以下に,(ii)の概要を述べる。 (ii)は一般退化ジグザグナノチューブ上のシュレディンガー作用素のスペクトルについて調べたものである。一般退化ジグザグナノチューブは,円周の長さが2の円と長さが1の線分を周期的につなぎあわせた量子グラフのことであり,これはグラフェンシートの類似物であるグラフィンシート(六角形とひし形からなる格子)をジグザグ型に丸めてできるカーボンナノチューブを考えた時に付随して現れる量子グラフである。(ii)では基本周期内に円が2つ,線分が1つある場合,(iv)では円が3つ,線分が1つある場合のものを調べた。これらの研究を通して,スペクトルのバンド構造を見た時に,スペクトラルギャップが発生するかしないかということと周期的な量子グラフ内の円と線分の配列に完全に対応関係があることが証明できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は,カーボンナノチューブに関連する量子グラフのスペクトル理論に関する論文が3編掲載および掲載受理された。これらの成果を通して,量子グラフのスペクトルがバンド構造を持つことの証明方法としていくつかの技術が確立されている状況である。まず,1次元的な周期的な量子グラフのスペクトルを調べる際,ブロッホ理論によってスペクトルの判別式を作ることができる。この判別式の挙動を解析する際に有効な手段として用いられる道具としてルーシェの定理がある。ルーシェの定理によって,スペクトルの判別式の零点を解析し,挙動を明らかにすることによってバンド構造を持つことを示すことができる。論文(ii),(iv)を通して,Korotyaev氏, Lobanov氏の先行研究に表れるよりも高次の代数方程式(3次,4次)との関連性を持ちながらもルーシェの定理によるバンド構造の存在の証明の手法を習得することができた。また, (iii)を通して,辺ごとに異なるポテンシャルを持つ場合の周期的量子グラフのスペクトル理論の問題を(部分的にではあるが)解決できたため,当該研究課題を部分的に解決できた,という段階になった。より一般的には,スペクトルの判別式が正則関数にならないような状況が起こりうるため,その状況下でのスペクトルの判別式の零点を解析する手法を習得してから一般化を進める必要がある。 (v)では,破損したカーボンナノチューブのスペクトルを調べた。その際,スペクトルの判別式が正則関数にはならず,有理型関数となった。そのため,初等的に知られているルーシェの定理ではスペクトルの判別式を解析することはできなかったが,極と零点を持つ場合のルーシェの定理の情報が得られたため,本論文の完成とともに当該研究の問題点がひとつ解決したことになるため,おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は,本研究を進めていく中でカーボンナノチューブに関する多くの情報が手元に集まってくる状況にあった。ホウ素や金からなる,カーボンナノチューブとは異なる構造を持つ量子グラフの存在,スーパーグラフェンなどの未精製の新物質の提案,Stanene と呼ばれるトポロジカル絶縁体の登場,あるいは五角形と七角形が混ざることで生まれるひずみのあるカーボンナノチューブやグラフェンの発見など,必ずしも数学の論文に限らず多くの文献を通して本研究分野の新しい話題にも視野を広げていくことを現段階で想定している。論文の中には数値計算のレベルでバンド構造を見ている文献もあるため,それらに数学的な証明を与えることも重要な研究課題であると考えられる。また,平成26年度に掲載・掲載受理された論文の一般化ができる状況にもあるため,必要に応じて一般化を進めることも考えている。当該研究の申請時の課題である「3つの異なるポテンシャルを持つ場合のカーボンナノチューブのスペクトル理論の研究」は,異なる2つのポテンシャルを持つ場合のことをもう少し3つの場合に近い形に変えて調べておく必要性があるため,そちらも進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
平成26年度はロシアのサンクトペテルブルクでスペクトル・逆問題に関する研究集会があった他,量子グラフのスペクトル理論の研究集会もあるなど内容的に興味深く当該研究集会に密接に関連する研究集会での講演・情報収集の機会が3度あった。しかしながら,2014年はクリミア半島の帰属の問題でウクライナとの国際関係が不安定であるようなニュースが多く取り上げられたため,安全性を考慮し渡航を断念した。そのため,この国際出張に当てるだけの旅費が残額として生じる形となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の残額は,平成27年度の情報収集ならびに研究発表を行うための旅費として活用する予定である。
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