2015 Fiscal Year Research-status Report
周期的シュレディンガー作用素のスペクトラルギャップの解析
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25800085
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Research Institution | Maebashi Institute of Technology |
Principal Investigator |
新國 裕昭 前橋工科大学, 工学部, 講師 (90609562)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | シュレディンガー方程式 / スペクトル理論 / 周期ポテンシャル / 量子グラフ / カーボンナノチューブ / バンド構造 / スペクトラルギャップ |
Outline of Annual Research Achievements |
当該研究の3年目にあたる2015年度は, カーボンナノチューブの構造に付随するグラフ上のシュレディンガー作用素のスペクトル理論の研究について,前年度までに培ってきた計算技術を活用して,応用的な話題も含めていくつかの成果(2編の論文の掲載・1編の論文の掲載受理・6回の口頭発表)を得ることができた。実際,2015年度末の段階で数学誌Proceedings of the Indian Academy of Sciences-Mathematical Scienceに掲載が受理されている内容である「周期的に破損したカーボンナノチューブのバンドギャップスペクトル構造」についての研究では,カーボンナノチューブの精製過程で使用する金属触媒を酸処理で除去する関係上カーボンナノチューブが破損してしまうという現実的な実情を考慮に入れてスペクトル理論の研究を行っている。本年度は上記論文の内容について,国内外での6回の口頭発表としても成果発表を行った。そのうち,日本数学会 春季総合分科会の函数解析学分科会では,特別講演としての講演の機会を頂くことができたため,2016年度に当該研究の最終年度を迎えるにあたって現段階でひとつの終着地点を迎えることができたと考えている。国外での活動としてもチリとシンガポールにおいて口頭発表を行うことができた。チリでの研究集会は,3年に1度開催されている国際的な数理物理学の研究集会である。また,シンガポールでの研究集会は数学の研究集会ではなく,ナノサイズの材料に関する工学系の研究集会であった。近年では数学の工学への応用が重要視される側面があるため,数学の当該研究についてこのような工学系の研究集会の主催者から講演の招待の機会を得ることが出来るようになったこともひとつの成果として考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
27年度は,当該研究に関連する2編の論文が掲載されたこと,1編の論文が掲載受理されたことが大きな成果として挙げられる。また,後者の論文成果についての6回の口頭発表の中には,日本数学会での特別講演の機会が得られたことや工学系の研究集会からの招待講演がなされるようになったことなどが含まれていることも理由として挙げられる。数学的な内容の面からも,周期的に破損したカーボンナノチューブの構造に付随したグラフ上のシュレディンガー作用素のスペクトルの解析には,1次元シュレディンガー作用素のスペクトルの解析をする場合に有効である正則なLyapunov関数の解析とは異なり,一般に正則ではなく有理型のLyapunov関数の性質を調べる必要性が生じ,論文は掲載受理の段階で54ページの長さを要するものとなった。有理型のLyapunov関数の零点・極を調べるに当たり,有理型関数に対するルーシェの定理を活用する必要性があり,より複雑な解析が可能になるという点で計算技術の向上が見られた。以上の点から,当該研究は現段階で当初の計画以上に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度からの3年間の当該研究を進めていく中で,カーボンナノチューブに関連する5編の論文の執筆を行ってきた。量子グラフのスペクトルは,グラフのトポロジー(辺と頂点の情報)・微分作用素(特にシュレディンガー作用素の場合にはポテンシャル)・境界条件の3つに影響を受けるため,5編の論文ではそれぞれの条件を変えて研究を行ってきた。また,カーボンナノチューブ上のシュレディンガー作用素についての研究を行っていく中で,カーボンナノチューブ以外に実在するものや理論設計の段階のものまで含めて 多くの炭素同素体の情報が集まってきている。こうした実情があることや,これまでの研究の成果発表を通して気がついたことなどを考慮してさらに論文の成果を拡張するといったことを含めて本研究ではまだまだ多くの研究テーマが残されている状況である。最終年度である28年度は,これまでの研究の整理の意味も含めて,最新の情報を取り入れながら残されているテーマを順次解決していく予定である。
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Causes of Carryover |
平成27年度は,チリでの開催された国際研究集会ICMP2015 の他にもヨーロッパで開催された研究集会に参加をする予定であったが,昨年1月頃からヨーロッパの諸地域での情勢が不穏な状態が続いていたため,安全性を考慮して渡航を断念したために旅費として予定していた予算が次年度に持ち越されることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の予算は,平成28年度の研究成果発表を行うための出張費として使用する予定である。
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