2014 Fiscal Year Research-status Report
マルチグループ輻射流体計算によるAGNトーラスから降着円盤へのガス供給過程の解明
Project/Area Number |
25800100
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
行方 大輔 筑波大学, 計算科学研究センター, 研究員 (40610043)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 活動銀河核 / 活動銀河核トーラス / 星間ガス / 輻射流体力学 / 数値シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は活動銀河核(AGN)のダストトーラスから巨大ブラックホール降着円盤へのガス供給過程の解明を目指すものである。このためにはダストトーラス内縁部の密度・温度構造、及び、そこでの角運動量輸送効率を明らかにせねばならない。トーラス内縁部の密度・温度構造は降着円盤からの強力な放射(紫外線やX線)とトーラス自身の赤外線再放射によって決定づけられ、角運動量輸送効率は密度構造と乱流強度によって決まる。したがって、トーラス内縁部の多波長輻射流体計算が不可欠である。本年度はこれに関係して、(1)ガスの自己重力、(2)ガスの光電離・光解離反応、(3)ダストからの赤外線再放射、を考慮した軸対称マルチグループ輻射流体計算コードの開発とトーラス内縁部の予備計算を実施した。赤外線輻射輸送計算モジュールの開発を進める過程で、これまで数値天文学でしばしば使用されてきたShort Characteristics法では輻射エネルギーの保存が著しく破れる場合があることを明らかにし、この問題を工学応用の分野で開発された有限体積法に基づく輻射輸送計算法を導入することで解決した。トーラス内縁部の予備計算から、(i)赤外線再放射はトーラスからのアウトフロー率を数割程度増加させること、(ii)アウトフロー率もEddington降着率と同程度に達しうることがわかった。これらは本報告書に記載した研究会発表等で報告を行った。また、前年度からの継続課題に関しては、AGN放射にさらされたガス雲に関する3次元輻射流体計算は論文として出版され、1次元輻射流体計算による衝撃波速度の電離パラメータおよび光学的厚み依存性についてのパラメータサーベイ(平成25年度研究実績報告書参照)は、現在論文を準備中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
まず、研究計画に若干の変更があったので、それを説明する。平成25年度研究実績報告書の推進方策では平成26年度は赤外線再放射を考慮した3次元輻射流体計算コードによって強輻射場中でのガスクランプ内での星形成過程の研究(研究課題(2))を実施する予定であった。しかし、次の理由により、研究計画に記載した研究課題(3),(4)に注力することとした:(I) 課題(2)の実施のためには3次元輻射流体計算コードに赤外線再放射を実装する必要がある。実装にはFLD法とモンテカルロ法の選択肢がありうるが、2つの方法それぞれに効率的なアルゴリズムの開発が新たに必要となることが判明し、その考案には時間を要すると予想される。前者は冷却層を設定するため、複雑な形状の乱流ガス雲の表面を同定する効率的なアルゴリズムが必要となり、後者は分割された計算領域境界近傍での光子多重散乱に伴う通信の発生を抑制或いは回避するアルゴリズムが必要である。(II) 課題(3),(4)により、課題(2)の現実的な初期条件が得られる。(III) 課題(3),(4)でも赤外線再放射の実装が必要であるが、粒子法ではなくメッシュ法を用いることで(I)で述べた問題を回避しうる。
次に、課題(3),(4)の達成状況について説明する。課題(3),(4)は赤外線再放射を考慮した輻射輸送計算コードによるAGNトーラス内縁部の輻射流体計算が作業内容であるが、本年度は計算コードの開発と予備計算の実施に留まった。この遅れの原因の1つは、概要でも述べた通り、数値天文学で使用されるShort Characteristics法で見られる輻射エネルギーが保存しない問題の解決に時間を要したためである。もう1つは詳細な光電離計算との比較から、AGNのX線加熱率を正確に考慮するために化学反応ネットワークを拡張する必要性に迫られたためである。以上の理由から、やや遅れていると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度に開発した輻射流体計算コードを用いて、AGNトーラス内縁部の輻射流体計算を実施し、トーラス内縁部の密度・温度構造、及び、ガス供給率と密接に関係するアウトフロー率の測定を行う。得られた密度場と速度場から、角運動量輸送効率を推定する。1次元輻射流体計算のパラメータサーベイに関しては、年度内出版を目指す。
|
Causes of Carryover |
前年度に提出した研究実施状況報告書では、本年度の研究費は京都大学のスーパーコンピュータの計算機使用料に充てる予定であった。次年度使用額が生じた理由は次の2点による:(1)本報告書前半で述べた輻射流体計算コードの開発が本年度の後半までずれこんだため大規模計算の実施まで至らなかった点、(2)予備計算から平成26,27年度の研究費を合わせなければ大規模計算に必要な計算機資源を使用できないことが判明した点。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度研究費は京都大学情報環境機構のスーパーコンピュータCray XC30(システムD)の計算機使用料に充てる。
|
Research Products
(4 results)