2013 Fiscal Year Research-status Report
太陽彩層を紐解く:スペース観測で迫る彩層プラズマ運動と磁場構造
Project/Area Number |
25800120
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Japan Aerospace Exploration Agency |
Principal Investigator |
岡本 丈典 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 宇宙航空プロジェクト研究員 (70509679)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 太陽 / プロミネンス / コロナ加熱 / 波動 / IRIS / ひので / 国際情報交換 / アメリカ |
Research Abstract |
本研究課題で使用する主要装置の1つ、太陽観測衛星「IRIS」が2013年6月末に無事打ち上げられ観測を開始した。これに伴い、申請者は衛星運用拠点であるロッキードマーティン太陽天体物理学研究所に長期滞在し、IRISチームメンバーとともに初期運用に参加した。研究のためのデータを取得すると同時に、解析に必要となるデータ較正も行った。特に、衛星指向安定精度の解析を集中的に行い、地球を周回する際に起こる視野の変動の特性などを調べ、機上ソフトウェア改修などに貢献した。その結果、周回変動による視野ずれを 1秒角以下に、指向精度を 3秒角以下に抑えることができ、衛星「ひので」との共同観測開始に必要な条件を整えた。この成果の一部は IRIS の装置論文(De Pontieu et al. 2014, Solar Physics)に掲載され、申請者も共著者として名を連ねている。 続いて、「IRISーひので」の共同観測を実施し、両衛星によるプロミネンス(太陽大気コロナに浮かぶ低温プラズマ)のデータを取得した。IRIS の多波長データ間の位置合わせから始まり、「ひので」可視光望遠鏡(SOT)のデータとの位置合わせ、そして衛星「SDO」の極紫外線望遠鏡(AIA)も含めて解析を行っている。この解析で、SOT のカルシウム線データから、プロミネンスを構成する筋状構造が大きく振動しているほど早く消失することがわかり、同時に IRIS データからは当該箇所で非熱的速度が大きいことが示された。また、カルシウム線(1万度)の構造が消えても IRIS のシリコン線(8万度)の構造は同一場所にしばらく存在していることから、当該箇所では磁力線を伝わる波動が散逸し、加熱しているのではないかと考えられる。現在、この結果について精査・物理的メカニズムについて議論しており、2014年度前半には論文として投稿予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
太陽観測衛星「IRIS」が無事に打ち上がり、設計通りの精度で観測が行われている。これまでに高空間分解能・高時間分解能で観測したことのない波長域であり、計画通りの性能が出ていることは本研究にとっても非常に重要である。このことにより、「ひので」との共同観測を有意義に実施できている。 この点を活かしてプロミネンス、スピキュールなどの構造を観測し、十分成果につながる観測データが取得できている。しかし、2つ以上の衛星データの位置合わせは事前の予想通り困難を伴い、研究計画に記載した通りの進展速度で進行している。この過程を加速させれば成果算出を迅速に行うことができるかもしれないが、衛星の初期データは予期せぬ様々な較正が必要であり、解析ミスや誤解釈を未然に防ぐためにもやや時間をかけて慎重に研究を進めている。これを踏まえても、「研究実績欄」に記載した研究成果については既にいくつかの国内外の研究会・学会等で講演・議論し、トップレベルの科学成果であるとの評価を得ているため、順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
既に進めている解析の成果については現在論文にまとめるべく議論を行っている。2014年度前半を目処に仕上げる予定である。 これに続き、同じプロミネンスのデータから、別の興味深い現象を既に発見しており、「ひのでーIRIS」の共同観測のメリットを活かして解析を実施する。この現象は、プロミネンスの筋構造の生成にも関連すると考えられるもので、「IRIS」のスペクトルデータから得られる非熱的速度の大きさや回転運動の有無なども考慮し、「ひので」で見られるダイナミックな上下運動について議論する。特に研究計画の変更は予定しておらず、当初の計画通り研究を推進する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
衛星「IRIS」の打ち上げに伴い、ロッキードマーティン太陽天体物理学研究所への長期滞在のために本研究費の大半を使用させていただいた。滞在期間や使用額は、衛星の打ち上げ日程、及びその後のデータ取得と解析進捗により影響を受けた。特に、3月に開かれた国内の学会出席のために帰国したことが主な理由であり、これにより予定よりも少ない日数の滞在となり、1週間程度分の滞在費を繰り越すことになった。 2014年度も上述の研究所への滞在研究を予定している。繰り越した予算を合算し、滞在期間中に行う研究を最大限有意義するよう努める。特に、2014年6月を目処に論文をまとめる作業を行うため、当研究所の共同研究者と現地で密に議論することを計画している。 また、2014年11月にインドのプネで開かれる国際会議の招待講演を依頼されており、そのための出張旅費として使用することも考えている。
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