2013 Fiscal Year Research-status Report
単結晶薄膜ダイヤモンドを用いた重イオンTOF検出器の開発及び大面積化手法の確立
Project/Area Number |
25800166
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
佐藤 優樹 独立行政法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 基礎科学特別研究員 (20632409)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ダイヤモンド検出器 / CVD単結晶ダイヤモンド / TOF / パルス波高欠損 |
Research Abstract |
高強度の重イオンビームラインにおける重イオンの飛行時間測定用(TOF)検出器として使用するため、単結晶CVDダイヤモンドを用いた重イオン検出器の開発を開始した。平成25年度は、厚さ65~140 μm、面積4×4 mm2のCVD単結晶ダイヤモンドから検出器を製作し、性能評価を行った。 241Am-α粒子、及び、AVFサイクロトロンで生成した8.6 MeV/uの7Liイオンの入射に対して、2 GHz Broadband Amplifierを接続して出力信号を観測したところ、パルス幅で1 nsec未満(FWHM)の高速応答を観測できた。α粒子の測定結果に関しては、GHz帯域の測定系での出力波形の歪みについて考察した論文をEPLにおいて発表した。加えて、ダイヤモンド検出器を2つ並べて7Liイオンを通過させ、TOFスペクトルを取得して時間分解能を評価した。結果、2つの検出器が同じ性能を有すると仮定した場合、検出器の持つ固有の時間分解能は約30 psと見積もられた。また、イオンビーム入射に伴う耐久性に関しても調査を行った。300 μm×300 μmのX-Yスリットでビームを切り、局所的に50 kpsのビームを照射したが、出力波高の顕著な低下は観測されなかった。 加えて、検出器に8.6 MeV/uの7Liイオンを通過させた際の付与エネルギースペクトルにおいては、同等厚さのSi表面障壁型検出器を上回るエネルギー分解能が観測され、エネルギー損失(⊿E)検出器としての可能性も示すことができた。一方で、数MeV程度の低エネルギー重イオンの入射では、Si表面障壁型検出器と同様にパルス波高欠損が観測された。この現象に関して、入射窓でのエネルギー損失や、電子・正孔対を作らない核的阻止能に起因するエネルギー損失の観点から考察した論文をEPLにおいて発表した。 ※EPL: Europhysics Letters
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、単結晶CVDダイヤモンド検出器の持つ固有の時間分解能の評価と、イオンビーム入射に対する耐久性の評価を行った。加えて、単結晶を使用するという観点から、多結晶使用では難しい、重イオン入射に対するエネルギースペクトルの取得も実施した。まずは、以上の3点について、我々が開発している検出器がどの程度の基本性能を有しているのかを把握するという最初の目標は達成できた。ここで、単結晶のCVDダイヤモンドを使用することにより、重イオンのエネルギースペクトル測定が可能な検出器への可能性も示すことができた点は、当初計画されていなかった波及的な成果である。 実験で見積もられた検出器の時間分解能は、これまでに報告されているチャンピオンデータには劣っているが、出力波高のばらつき(検出器性能の不均一性を含む)や測定手法に改善点が見つかっており、今後改善を進める。これに関連して、既存のダイヤモンド検出器用の広帯域アンプが有する問題点を指摘しており、測定回路の改良も進める予定である。一方で、耐久性テストの結果においては、開発の初期段階としては満足できるものであった。 まとめとして、初年度は基本性能の把握に加えて、エネルギースペクトル測定が可能な検出器としての可能性を提示し、今後の改善点も指摘することができた。また、得られた成果を2編投稿論文として発表できた。これらの点を勘案して、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在使用している結晶は面積が4×4 mm2程度と小さい。このため、平成26年度は検出器の有効面積の拡大に向けた取り組みを実施する。具体的には、小さなサイズの単結晶をモザイク状に複数枚並べることを行う。加えて、平成25年度と同様に241Am-α粒子や加速器からのイオンビームを用いて高速応答性やエネルギー分解能の評価を行い、有感面積の大面積化手法の確立を目指す。 エネルギー分解能に関しては、同等厚さのSi表面障壁型検出器を上回るエネルギー分解能が観測されるなど優れた結果が得られているが、タイミング特性、すなわち時間分解能に関しては改善の余地が多く残されている。これに関しては、ダイヤモンド検出器から出力される高速信号に最適化された新規信号読み出し回路の開発などにより、さらなる性能向上を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
加速器からのイオンビームを用いた実験において、当初、ビームモニター用に蛍光粉末、もしくは蛍光塗料の購入を検討していた。しかし、他実験で使用していた蛍光粉末を譲り受けることとなり、購入の必要性がなくなった。 約¥20,000の次年度使用額に関して、検出器からの信号読み出しに使用するコネクタや、ケーブルなど、消耗品費として使用することとする。
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Research Products
(2 results)