2013 Fiscal Year Research-status Report
走査プローブ法と伝導度測定によるグラフェンへのバンド・ギャップ誘起の研究
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25800191
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松井 朋裕 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40466793)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | グラフェン / 走査トンネル顕微/分光法 / バンドギャップ誘起 / スピン偏極ジグザグ端状態 |
Research Abstract |
本研究課題では、グラフェン上に原子あるいは分子を (√3x√3)R30°構造で吸着させることによって期待されるカイラル対称性の破れと、それによるバンドギャップ誘起を走査トンネル顕微/分光法(STM/S)による局所的な測定と、電気伝導度測定による巨視的な測定を併用して調べることを目的とする。 昨年度はKr原子を吸着子として、SiO2上に劈開して作成した劈開グラフェンの伝導度測定を行った。申請時までにはグラフェンの抵抗のゲート電圧依存性にはKr吸着の効果は観測されず、希ガスであるKr原子ではグラフェンの電子状態を変化させるほどの効果をもたないと考えていた。しかし吸着量を増やすことでグラフェンへの電子ドープが観測された。一方、SiC結晶上にエピタキシャル成長して得られたSiCグラフェンに対するSTM/S測定では、Kr原子はグラフェンと基板との間にインタカレートすると同時にディラック点エネルギーがマイナス側にシフトする様子が観測された。これはグラフェンへの電子ドープに対応し、伝導度測定の結果とも符合する。 同時に、申請者はグラフェンおよびグラファイト上にジグザグ構造の端を選択的に作成する研究も進めてきた。ジグザグ端で挟まれたナノリボンでは、グラフェンへのバンドギャップ誘起とジグザグ端状態の解明というグラフェン研究の2大課題を同時に取り扱うことができる。昨年度は作成したジグザグ端の電子状態の低温、高磁場中でのSTM/S観測にも着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時までは、STM/S測定ではSiCグラフェンに対して、伝導度測定では劈開グラフェンに対して、Kr原子を低温で吸着させた場合の電子状態の変化を測定し、Kr原子がSiCグラフェンと基板との間にインタカレートすること、一方、伝導特性にはKr原子の影響は何も現れないことが分かっていた。こうした結果を統一的に理解するためには、STM/S、原子間力顕微鏡、伝導度測定の機能を併せもつ新型の走査プローブ顕微鏡(SPM)を用いて、同一試料に対しての測定が必要不可欠である。そこで初年度には、超低温、高磁場、超高真空という多重極限環境下で動作する新型SPM装置を立ち上げると同時に、希ガスであるKr以外の吸着子をもちいることを計画していた。また2年目には新型のSPM装置を使った実験と共に、グラフェンに細孔を周期的に明けたグラフェン細孔列(GNPA)の研究を計画していた。GNPAではグラフェンにバンドギャップを誘起できる可能性と共に、ハニカム構造に特有のスピン偏極したジグザグ端状態の研究も期待できる。 それに対して申請後の研究の結果、STM/S測定、伝導度測定ともにKr原子によるグラフェンへの電子ドープを示唆する結果が得られたので、初年度の計画を後ろ倒しにして、Kr吸着グラフェンの電子物性について精密な実験を進めた。加えて、グラファイトやグラフェンにジグザグ端を選択的に作成できることが現実的になったので、ジグザグ端で挟まれたグラフェンナノリボンの研究にも着手した。ナノリボンはバンドギャップ誘起と共に、ジグザグ端状態の舞台でもあり、2年目に計画していたGNPAの研究を、試料は違うが、前倒ししたものである。 このように、研究は当初の計画通りには進んでいないが、進捗状況を鑑みてその順番を入れ替えたり、同じ研究目標のもと実験系を変更したもので、研究全体としては順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、Kr吸着によるグラフェン物性変化の精密測定を進めると同時に、グラファイト表面上でのジグザグ端ナノリボンのSTM/S測定を、昨年度に引き続き進める。 ここで、使用しているSTM/S装置は超低温、高磁場、超高真空の多重極限環境下で動作する装置であり、後ろ倒しにした新型のSPM装置は、このSTM/S装置と測定装置を入れ替えることで行う。そのため、新型のSPM装置の立ち上げと、進行中の研究とは同時に進めることができない。 そこで今年度は、進行中の研究と平行して、新型SPM装置の立ち上げに必要な部品を製作、用意しつつ、上記の研究の決着を待って、新しい装置の立ち上げに着手する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究進捗の都合により、研究計画を若干修正し、順番を入れ替えたため、当初予定していた購入品の緊急性は薄れ、別の物品、消耗品の購入が必要になった。そのため予算を繰り越す必要が生じた。 上述の研究推進方策のように研究を進めていくのに当って、必要な物品を購入していく。その際、装置の新規立ち上げに必要な消耗品の購入や、低温を得るために必要な寒剤(液体ヘリウム、液体窒素)の購入が中心的な使用用途になる。
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Research Products
(7 results)