2013 Fiscal Year Research-status Report
トポロジカル超流動3Heのダイナミクスへの微視的アプローチ
Project/Area Number |
25800199
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
水島 健 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (50379707)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | トポロジカル超伝導 / 超流動 / マヨラナ粒子 / 準古典理論 |
Research Abstract |
本年度は、様々な超伝導・超流動体おいて対称性とトポロジーの関係性について詳細に調べた。まず、スピン軌道相互作用を持った冷却フェルミ原子気体系について調べた。この系では、レーザーを照射することでスピン軌道相互作用を印加することができる。さらに一様磁場を印加することで、現実的な状況においてトポロジカル超伝導性が現れることを示した。この系は一様磁場のために時間反転対称性を破るが、鏡映対称操作と時間反転操作を組み合わせた離散対称操作のもとでの不変性は保持する。この離散対称性が破られない限りトポロジカル不変量は非自明であり、系のエッジにはマヨラナ粒子が存在する。さらに、この議論を重い電子系超伝導UPt3へ拡張した。この系の超伝導ペア対称性は未だ解決されておらず、時間反転対称性を持ったE1u状態と時間反転対称性を自発的に破ったE2u状態とが有力候補として理論提案されている。本研究成果により、E1u状態は一様磁場中においても鏡映対称性によって守られたトポロジカル超伝導であることが分かった。この性質は結晶場やスピン軌道相互作用などの複雑な効果を取り込んでも保持される。一方のE2u状態はこのようなトポロジカル超伝導特性は示さない。E1u状態では表面にマヨラナ粒子を伴い、その磁気応答はイジング的異方性を示すことも示された。これらの成果をもとに、トンネル効果を介した超伝導ペア対称性の決定方法を提案した。更には、超流動3He-AやSr2RuO4などのような時間反転対称性が自発的に破れたトポロジカル超伝導・超流動体の整数量子渦には、鏡映対称性によって守られたマヨラナ粒子が存在することが分かった。通常のフェルミ粒子と異なり、この粒子は非可換統計性に従う非可換エニオンとして振る舞う。この非可換エニオンは新奇量子輸送現象やトポロジカル量子演算等において重要な役割を演じることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究成果によって、トポロジカル超伝導・超流動体における対称性とトポロジーの関係性が明らかになった。これは、対称性によって守られたマヨラナ粒子がこの系に内在することを示唆している。鏡映対称性などの超伝導・超流動物質が基本的に含有している離散対称性によって、マヨラナ粒子のイジング的磁気異方性や非可換統計性が「守られている」ことが分かった。今後2年間で、トポロジカル超流動体での量子輸送特性を明らかにしていくことを目的としているが、本成果により、この系の量子輸送が当初の予想よりも遥かに物理的に豊かな性質を持っていることが期待される。また、初年度では、トポロジカル超伝導・超流動のダイナミクスを研究していく上での基盤的知見を得つつある。具体的には、Ginzburg-Landau理論に基づいた現象論的なプローチにおいて、トポロジカル超流動相が実現される制限空間中の3Heのダイナミクスを調べた。現在、予備的計算と解析を進めており、この系での集団励起や輸送特性などの微視的理論計算への足がかりとなる知見を得つつある。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究成果により、超伝導・超流動体におけるトポロジーと対称性との間の関係性が明らかになった。この結果として、この系の表面や量子渦には「対称性によって守られたマヨラナ粒子」が存在することが分かった。このエキゾチック準粒子が非平衡ダイナミクスや量子輸送特性へ与える影響を明らかにすることが、今後の研究課題である。一方で、超伝導・超流動のダイナミクスには準粒子だけではなく、クーパー対の集団励起が大きな影響を与えることが知られている。今後の研究方針として、まず26年度は超伝導・超流動のボース粒子的な自由度であるクーパー対の集団励起に注目し、その低エネルギー構造を明らかにする。特に制限空間中での Nambu-Goldstone モードと Higgs モードの性質を有効ラグランジアンを構築することで明らかにする。トポロジカル超伝導・超流動のエキゾチック準粒子と集団励起の性質を個別に明らかにした後に、それらを equal footing に取り込んだミクロな理論を展開していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
106,746円の次年度使用額が生じた。大きな理由としては、近年のワークステーションのコストパフォーマンスの上昇によって、当初の予想よりも低価格で高性能のワークステーションを購入できたことである。残額を次年度予算と合算することにより、より効率的に予算運用できると考えている。 106,746円の次年度使用額を26年度の予算請求額とあわせることで、より効率的に予算運用する。具体的には国内外で開催される研究集会や国際会議への出張を増やし、初年度に得られた研究成果の発表や、さらに今後の研究課題遂行のために必要な情報収集などを行うための予算に充てる。
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