2014 Fiscal Year Research-status Report
一軸圧力が誘起するスピン・格子結合系の新奇交差相関応答の探索とその起源の解明
Project/Area Number |
25800203
|
Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
中島 多朗 独立行政法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員 (30579785)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | マルチフェロイック / 一軸応力 |
Outline of Annual Research Achievements |
H26年度も前年度に引き続き、強相関電子系におけるスピン・電荷・軌道・格子自由度を巻き込んだ複合的な秩序状態に対して「一軸圧力」を加えて系の対称性をコントロールすることで新たな物性を引き出すことを目指して研究を行った。 H26年度からは新たな研究対象物質としてマルチフェロイック物質Ba2CoGe2O7(BCGO)と、キラルな結晶構造を持つらせん磁性体MnSiについての一軸応力効果の研究に取り組んだ。BCGOは反転対称性を持たず、かつ極性も持たない P-42_1m の空間群に属する結晶構造を持つ系である。 基底状態は単純な2幅格子の反強磁性秩序を示し、最近の中性子散乱実験からは 磁気モーメントが a または b 軸に向いていることが報告されている。この状態から[110]方向に磁場を加えると磁気モーメントの方向が45°回転し、これが結晶の対称性をより低下させることから磁場誘起の強誘電性を生じることが知られていた.我々はこれと同様な強誘電性が,磁場ではなく[110]方向の一軸応力によっても誘起することができることを実験的に示し,さらに分極誘起に必要な応力が僅か数十MPa程度と非常に小さいことを示した。これはBCGOに限らず、多くのマルチフェロイック物質において一軸応力による僅かな対称性の変化が巨大な応答を引き出す可能性を示すものである。 また、MnSiについては,転移温度直下かつ有限磁場中でSkyrmion格子相と呼ばれるスピンの渦状構造が三角格子を形成した状態が実現することが知られていたが、この相の安定性にも一軸応力が多大な影響を与えることを示す結果を一軸応力中の帯磁率測定及び中性子散乱測定から得ることができた。これについては更なる中性子散乱測定や磁気構造の変化に対応する輸送特性の変化などについて研究を進める予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H26年度は研究の対象とする物質の幅を広げ、より広い視点に立って強相関物質系への一軸応力効果を進めることができた。H26年度より所属が変わり、理化学研究所創発物性科学研究センター所属となったが、今年度の科研費を用いてこれまで実験に用いてきた一軸応力セルを改良することで、現所属で使用可能な低温実験装置と組み合わせて測定を行うことができるようになった。これにより継続してこのテーマの研究を続けることができる環境が整った。 H25年度まで研究を進めてきたCuFeO2, FeTeといった物質は磁気秩序に応じて自発的に格子を歪めることが分かっており、スピンと格子が比較的強く結合した系であった。しかし、H26年度に取り組んだBCGO、MnSiなどの系は自発的な格子歪みはほぼ示さず磁気秩序相においても比較的高い対称性の結晶構造を維持している。今年度の成果は、このような対称性の高い系に一軸応力を加えて“強制的に”対称性を下げることで大きな交差相関応答が見られたという点で非常に意義が大きく、強相関物質系の一軸応力応答を探査する上で新たな指針を与えるものである。 前述のBCGOにおける一軸応力誘起強誘電性の研究成果については、日本物理学会で口頭発表を行い、さらに論文としてPhysical Review Letter誌に掲載された。MnSiの研究についても同様に日本物理学会で発表を行い、現在論文を準備中である。 また、H25年度中に行ったGa-dope CuFeO2の磁気・結晶構造の精密化についての研究が論文としてまとまりH26年度にPhysical Review Bへ掲載された。こちらは一軸応力を用いて磁気・結晶ドメイン構造を制御することで実現したものであるが、一軸応力とX線回折などのプローブを組み合わせる実験手法が強相関物質研究において有効であることを示す例となった。
|
Strategy for Future Research Activity |
前述のようにBCGOの一軸応力誘起強誘電性の発見によって、強いスピン格子結合を持たない系であっても、系のわずかな対称性の変化によって大きな交差相関応答が引き出せることが明らかになったため、今後はこの方針を生かして研究を進めて行くことを検討している。方針としては大きく分けて2つあり、一つはこの一軸応力誘起強誘電性をより高温で実現することである。BCGOの場合は転移点が~6.7 Kであり、非常に低温でしかマルチフェロイック特性を示さないが、比較的高温でもスピン起源の強誘電性を示すヘキサフェライトなどの物質群においても対称性の外的制御によって分極を制御することができれば、応用の観点からも魅力的な成果となることが期待される。もう一つの方針は対称性の変化による複数自由度の同時制御である。BCGOでは元々系が反転対称を持たないことから弱強磁性が発現しており、一軸応力の印加は強誘電性を誘起すると同時に、その弱強磁性モーメントの方向も変化させていると考えられる。これはすでに強誘電性と磁性の両方を制御していることを示しているが、今後はこれをより発展させて、対称性の変化により常誘電-強誘電転移と同時に反強磁性-強磁性転移を実現するような物質を探索し、これを実験的に確かめることを目指す。 実験の手法としてはこれまでと同様に、研究室での一軸応力中のバルク測定と外部施設での中性子散乱及び放射光X線回折実験を用いて研究を進めて行く計画である。
|
Causes of Carryover |
H26年度は所属が理化学研究所に移ったため、新しい実験室における実験装置にこれまで作成した一軸応力セルを合わせて測定を行うための改造が必要があった。そのため、年度中に2回にわたって研究費の前倒し使用申請(合計60万円分)を行い、改造の費用に充てた。そのおかげで新しい環境でも年度の前半には必要な実験環境が整い、本報告書に示したような成果を上げることができた。 この際に、予定よりも少ない予算で一軸応力セルの改造が完了したため、余った予算は年度中に消化せずに、本来の使用する予定であったH27年度へと持ち越すことにした。よって、本来H26年度分として計上されていた分の研究費はH26年度中に使い切ったことになる。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまでこの科研費を用いて一軸応力セルの開発を進めてきたが、これまでに一軸応力中の磁化測定,誘電率測定、電気分極測定、X線回折及び中性子散乱実験が可能となり、これを用いて多くの成果をあげることができた。来年度の研究費は、主にこの装置群についての消耗品の補充と、更なる装置の高度化として測定の自動化及び一軸応力のコンピュータ制御を目指した装置開発に用い、より効率的に実験を進めるための環境づくりに使用する計画である。また、この成果を積極的に国内外の学会で発表する際にはこの科研費からの旅費の支出も検討している。
|
Research Products
(5 results)