2013 Fiscal Year Research-status Report
強相関冷却原子系におけるトポロジカル秩序の探索とその基礎理論の構築
Project/Area Number |
25800225
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
古川 俊輔 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50647716)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 物性理論 / 冷却原子 / 人工ゲージ場 / 量子ホール効果 / スピントロニクス / トポロジカル秩序 / トポロジカル絶縁体 / ボースアインシュタイン凝縮 |
Research Abstract |
本研究課題は、人工ゲージ場中の冷却原子気体で期待される新しいトポロジカル秩序状態の理論的探索とその諸性質の解明を目的としている。2013年度の成果は以下の3点である。 [1]人工磁場中の二成分ボース気体を厳密対角化法により解析し、U(1)対称性で守られたボソン版の整数量子ホール状態が現れることの数値的証拠を得た。フェルミオンの整数量子ホール状態は相互作用のないもとで現れるのに対し、この状態は二成分が強く相互作用することで初めて現れる。この状態のエンタングルメント・スペクトルを計算することで、電荷モード、スピンモードが逆向きに伝搬する特異な端状態の存在を示した。この結果は、二次元以上のボソン系において、対称性で守られたトポロジカル相の存在を数値的に示した数少ない例の一つである。 [2]二成分ボース気体に反平行の人工磁場をかけた、時間反転対称な設定のもとでの基底状態相図を解析した。このような特異なゲージ場は、近年、位置依存した人工スピン・軌道相互作用を用いて実験的に実現されている。分数量子スピン・ホール状態が成分間、成分内相互作用が同程度の大きさを持つ領域まで安定に現れること、成分間相互作用が引力のときに二成分の粒子がペアを組んだ厳密な基底状態が得られることを示した。 [3]梯子系や二次元トポロジカル相におけるエンタングルメント・スペクトルと端状態の一般的関係を調べるため、結合した朝永・ラッティンジャー流体(TLL)での解析計算を行った。結合したカイラルTLLでの計算を通して、量子ホール系においてエッジ、エンタングルメント・スペクトル間の対応関係があることのシンプルな物理的証明を与えた。さらに、結合した非カイラルTLL系のギャップ相、ギャップレス相において、この対応関係が成り立たない状況があることを議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、(1)人工磁場中の一成分、二成分ボース気体における量子ホール状態の詳細な相図の決定、(2)人工スピン軌道相互作用の下での分数量子スピン・ホール状態の諸性質の解明を具体的目標に挙げている。人工磁場中の二成分ボース気体については、申請前の研究において、非可換統計に従う特異な準粒子を持った非可換スピン・シングレット状態が占有率4/3で現れることを示していた。今回新たに、占有率2でボソン版整数量子ホール状態が現れることの数値的証拠を得たことで、この系が非可換状態、整数状態の競合する豊かな相構造を持っていることが明らかになり、(1)の研究が大きく進展した。(2)については、関連する実験研究が行われたことを受け、その系に対応する反平行磁場中の二成分ボース気体の模型でいち早く理論解析を行った。分数量子スピン・ホール状態が成分間、成分内相互作用が同程度の大きさを持つ領域まで相転移することなく安定に現れるという結果は、従来の予想と異なる重要な結果であり、その解釈が新たな課題となった。また、成分間相互作用が引力のときに得た厳密な基底状態は、平均場、強相関領域が同じ形の波数関数で結び付けられる興味深い結果であり、今後より詳しく調べていく予定である。このように目標に向けて順調に成果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
人工磁場中の二成分ボース気体について、より詳細な相図を決定する。これまでは主に成分内、成分間相互作用が等しい場合について解析を行っていたが、二つの比を変化させることで、独立な二つの量子ホール状態から二成分が混成した非自明な状態へどのように転移していくのか、その全容を明らかにする。また、占有率4、6での量子ホール状態の性質が未解明であり、有効的場の理論と数値データを比較しながらその解明に取り組む。反平行磁場中の二成分ボース系における分数量子スピン・ホール状態の安定性について、複合フェルミオン描像などをもとにその解釈を行う。反平行磁場中の二成分系は、イリジウム酸化物などで重要になる強いスピン軌道相互作用と粒子間相互作用の競合を理解するためのミニマルな設定としても興味深い。フェルミオン系や長距離相互作用が存在する場合などに研究を拡張し、新しい量子現象を探索する。また、これまでの研究は少数系の厳密対角化計算に基づいていたが、より大きな粒子数での計算を可能にする数値計算アルゴリズムの開発にも取り組む。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度は国内で開催される学会、国際研究会での発表の機会が多数あり、海外の国際研究会での発表の機会を次年度以降に持ち越したため、出張旅費の年間総額が当初の予定より少なくなった。また、所属研究室で他の研究課題のために購入した計算機資源を、その研究課題を阻害しない範囲で本研究課題に活用することができたため、新しい計算機の購入を次年度以降に持ち越した。以上の理由により次年度使用額が生じた。 2014年度の研究費の主要用途は、数値計算解析を行うための計算機設備の拡充と、国内・国際学会において成果を発表するための出張旅費を予定している。本研究課題で用いる厳密対角化などの数値計算法は粒子数を大きくするほど、より大きな計算機資源が必要となる。多体系の性質を引き出せる十分な粒子数での計算を行うため、計算機資源の拡充を行う。所属研究室の計算機資源は13名で共有しており、また、一部老朽化している。本研究費により最新のCPUを搭載した計算機を補充し、計算機設備のバージョンアップを行うことで、本研究課題の遂行に十分な計算機資源を確保する予定である。得られた研究成果は国内・国際学会において積極的に発表し、関連分野の研究者と議論を行う中でさらに発展させていくことを計画している。そのための出張旅費を計上する。
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Research Products
(13 results)