2014 Fiscal Year Research-status Report
強相関冷却原子系におけるトポロジカル秩序の探索とその基礎理論の構築
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25800225
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
古川 俊輔 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50647716)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 物性理論 / 冷却原子 / 人工ゲージ場 / 量子ホール効果 / スピントロニクス / トポロジカル秩序 / トポロジカル絶縁体 / ボースアインシュタイン凝縮 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、人工ゲージ場中の冷却原子気体で期待される新しいトポロジカル秩序状態の理論的探索とその諸性質の解明を目的としている。2014年度の成果は以下の3点である。 [1]2013年度に続き、二成分ボース気体に反平行の人工磁場を印加した時間反転対称な系の基底状態相図を解析した。この系は量子スピン・ホール物理における相互作用効果を研究できるモデル例と言える。解析の結果、(i)占有率が大きく平均場近似がよく成り立つ場合には、二成分に平行磁場がかかるときと同じ渦格子構造が現れること、(ii)占有率が小さい場合には、二つの分数量子ホール状態の直積で近似される分数量子スピン・ホール状態が成分間斥力相互作用の強い領域まで安定に現れること、 (iii)成分間相互作用が引力の場合には二成分の粒子がペアを組んだ厳密な基底状態が得られることを示した。 [2]光格子、人工ゲージ場中のボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)の励起バンドのトポロジーに関する研究を行った。トポロジカル絶縁体の典型例として知られるハルデン模型を相互作用するボソン系へ拡張した模型を考察し、そのBEC相の励起バンドが非自明なトポロジーを獲得する条件を明らかにした。さらに、系にシャープな境界があるときにカイラル端状態が現れること、BECの一部をそのような端状態に励起することで端に局在した密度波がバルク・端の干渉パターンとして現れることを示した。これは巨視的量子現象を利用した端状態の新しい観測法として応用できると期待される。 [3]スピン軌道相互作用が重要な役割を果たす系として、磁性と誘電性の共存するマルチフェロイクス物質が知られている。ソウル大学のJ.-G. Park教授らと協力し、室温マルチフェロイクス物質BiFeO3におけるDzyaloshinskii-Moriya相互作用と単イオン異方性の温度変化を、中性子散乱実験とスピン波解析を組み合わせることで決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、(1)人工磁場中の一成分、二成分ボース気体における量子ホール状態の詳細な相図の決定、(2)人工スピン軌道相互作用の下での分数スピン・ホール状態の諸性質の解明を具体的目標に挙げている。2014年度は、反平行磁場中の二成分ボース気体の基底状態相図の全体像を明らかにすることができ、(2)の研究をボソン系についてほぼ完成させることができた。また、最近、スイスのグループによりトポロジカル絶縁体の典型例と言えるハルデン模型が光格子中の冷却原子系で実現されたことを受け、光格子中のBose-Einstein凝縮体の励起バンド・トポロジーに関する研究を行った。巨視的量子現象を利用した端状態の観測法を考案し、冷却原子系でのトポロジカル状態について新しい研究の方向を開拓することができた。この結果は現在、論文としてまとめている。一方、(1)の研究については、2013年度までに二成分ボース気体特有の整数量子ホール状態の存在を明らかにするなど、主要な状態の性質は明らかにしてきたが、成分内・成分間相互作用を変化させたときの詳細な相構造はまだ明らかにしていなかった。反平行磁場中の二成分ボース気体との定性的な振舞の違いの解釈も得られていない。これらの課題は2015年度に取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
人工磁場中の二成分ボース気体について、より詳細な相図を決定する。これまでは主に成分内、成分間相互作用が等しい場合について解析を行っていたが、二つの比を変化させることで、独立な二つの量子ホール状態から二成分が混成した非自明な状態へどのように転移していくのか、その全容を明らかにする。また、占有率4、6での量子ホール状態の性質が未解明であり、有効的場の理論と数値データを比較しながらその解明に取り組む。有効的場の理論については、近年開発された結合朝永・ラッティンジャー模型に基づく方法を応用し、準粒子の非可換統計性と対称性保護のもとでの新しい状態の可能性を探索する。さらに、反平行磁場との相構造の違いについて、有効Chern-Simons理論からの説明を試みる。また、これまでの研究は少数系の厳密対角化計算に基づいていたが、より大きな粒子数での計算を可能にする数値計算アルゴリズムの開発にも取り組む。
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Causes of Carryover |
2014年度は国際研究会参加のために2回の海外出張を行ったが、その一方は研究会主催者から旅費が支給された。また、国内の学会、国際研究会、セミナーで多数の発表を行ったが、そのうち京都での国際研究会では主催者より旅費が支給され、また、学会、セミナーのいくつかが東京近辺で行われたため、宿泊の必要なく参加することができた。このような事情から出張旅費の年間総額が当初の予定より少なくなり、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度の研究費の主要用途は、国内・国際学会において成果を発表するための出張旅費を予定している。これまでに得られた研究成果を国内・国際学会において積極的に発表し、関連分野の研究者と議論を行う中でさらに発展させていくことを計画している。また、共同で研究を行っている大学院生の国内出張旅費および発表に必要なノートPC購入費も計上する。
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Research Products
(9 results)