2014 Fiscal Year Research-status Report
極低温原子気体との共同冷却によるイオンの振動基底状態冷却
Project/Area Number |
25800227
|
Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
土師 慎祐 電気通信大学, 学内共同利用施設等, 助教 (10647423)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 冷却原子 / イオントラップ / 低温化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の研究においては「ミリケルビン温度にまで冷却されたイオンと中性原子間の電荷交換衝突の観測」を行った。 本研究課題のねらいは「極低温原子気体との共同冷却によるイオンの振動基底状態冷却」である。実際の実験では真空環境中で捕獲、冷却された原子気体と単一イオンを同一空間上で直接コンタクトさせ、イオン・原子間の相互作用により共同冷却を行う。当該実験系では様々なタイプのイオン・原子間相互作用が考えられるが、その中でも共同冷却に寄与する”弾性散乱”と化学反応における要素過程となる”非弾性散乱”の基本特性を調べることは本研究課題遂行において極めて重要と言える。特に後者の非弾性過程は本研究で用いる物理系における衝突安定性や反応性を決定する最大要因である。そのため今年度の研究ではミリケルビン領域へのイオン冷却を実現する実験系を構築し、「低温領域でのイオン・原子間の電荷交換過程の解明」を行った。 より具体的にはリチウム原子気体と単一イオンの同時トラップにより空間的に重ね合わせた際のイオンロスを測定することで、ミリケルビン温度での非弾性散乱断面積の決定を行うことに成功した。さらに両者間の散乱測定において原子気体密度を変化させた時の非弾性散乱レートを詳細に調べ、その依存性より観測された散乱過程がイオン・原子間の二体衝突による電荷交換であると結論付けることができた。尚、上記の研究成果は論文にまとめられPhysical Review A 誌にて掲載された(Phys. Rev. A 91, 032709 (2015) )。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題のねらいは「極低温原子気体とイオントラップ中の単一イオンとの相互作用を利用した共同冷却」であるが、昨年度および本年度の研究によりイオン・原子間の冷却ダイナミクスを特徴づける過程である”弾性散乱”および”非弾性散乱”の両過程の特性を実験的に詳細に解明することができた。また、これらの実験成果を二本の論文にまとめて学術論文誌へ投稿し、査読を経て刊行されることとなった。 上記の研究進捗状況を考慮すると、目標達成のための重要なステップを着実にこなしていると判断できるため、おおむね順調な研究進度であるという自己評価に至った。
|
Strategy for Future Research Activity |
来年度の研究では本研究課題の最終目標である「イオン・原子間の共同冷却」に関する実験を行うことを予定している。 これまでの研究により、本研究で用いる物理系である極低温原子・イオン混合気体における散乱過程の主たる特性を把握することができた。今後はイオン・原子間の弾性散乱によるイオントラップ中の単一イオンの冷却効果の検証を行う。本研究ではそのために、単一イオンが有する狭線幅光学遷移を用いてイオンの温度測定を行うことを予定している。イオンの狭線幅遷移を励起するためには高安定なレーザー光源を準備する必要があるため、本年度の研究の大部分は高安定レーザー光源の開発が占めることとなる。最終的には上記方法を用いてイオンが調和ポテンシャル中の基底状態にまで冷却されることを実験的にデモンストレーションする予定である。
|
Causes of Carryover |
研究遂行に必要な光学機器の購入計画に修正が生じたため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究課題遂行に必要となる光学機器(光学変調器等)や電子機器(デジタル信号発生器等)の購入に使用する計画である。
|
Research Products
(4 results)