2014 Fiscal Year Research-status Report
沈み込み帯熱水循環の数値モデリング:地震発生帯の温度圧力条件の推定に向けて
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25800246
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
川田 佳史 独立行政法人海洋研究開発機構, 海底資源研究開発センター, 特任研究員 (50402558)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 沈み込み帯 / 熱流量 / 熱水循環 / 日本海溝 / 南海トラフ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、日本海溝で観測されている高熱流量異常 [e.g., Yamano et al., 2014, EPSL] のうち、空間スケール1 km程度の短波長の熱流量異常が生じる原因を調べた。まず断層内の熱水循環がどのような熱流量異常をもたらすかについて、定常状態の熱対流の数値計算を行った。計算の結果、熱流量異常のピーク値は観測を説明できる程度であるが、空間スケールは断層の幅程度と現在得られている観測値より短いことがわかった(ここまでをLabani et al. として投稿し、現在査読結果への対応を行っている)。さらに、断層が割れた直後の非定常な熱輸送についても計算を行った。その結果、断層内の熱水循環は、断層の周囲の熱を熱伝導によって運ぶことがわかった。これは熱伝導が支配する過程であるため、その持続時間は長く、かつ、影響が及ぶ空間スケールは断層の幅よりも長くなることがわかった。これらのモデルが正しいか否かは、今後の観測により明らかになる。日本海溝の高熱流量異常が本研究で示した効果によるものならば、日本海溝には大量の水が運び込まれていることになる。 本年度はまた、海水の相分離の効果についても調べた。簡単な見積もりの結果、沈み込み帯で恒常的に相分離が起こっているのは、年代が数Myrより若いものに限られることがわかった。例えば、南海トラフの室戸沖では、かつて沈み込んだプレート内で相分離が起こっていたと予想される。熱水系で行われた相分離の先行研究を参考にすると、相分離で生じた高塩濃度の水が沈み込んだ先に向かって落ち込んでいることが予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の研究により、これまでわからなかった、日本海溝で観測された短いスケールの熱流量異常の原因が明らかになった。このことは、単に観測結果を説明するというだけでなく、沈み込み帯の内部の熱・水の循環にとっても重要な要素である。これらの結果は、昨年度の透水層が厚くなることで生じる熱水循環による熱流量異常と合わせて、本研究課題の目玉となる成果であり、この分野へ及ぼすインパクトは高いと考えている。 他方、当初予定していた沈み込み帯内部の熱水循環の扱いについては遂行がやや遅れている。相分離を組み込んだプログラムの開発を進めており、現在、単体の計算ができるようになった所である。この沈み込み帯への組み込みは、今後の課題として残った。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度行った断層内の非定常な循環についての体系的な計算を行い、これを研究成果としてまとめる。この結果と、昨年度行った厚くなる透水層による熱水循環の効果を統合した「沈み込み帯の熱輸送モデル」の提出も行いたい。これまでの結果により沈み込み帯には大量の水が運ばれていることがわかったため、運ばれた水が沈み込み帯の熱輸送に与える効果を、相分離の効果と合わせて調べる予定である。 なお昨年度及び本年度の研究により、研究を始める前の段階では知られていなかった沈み込み帯の熱輸送プロセスが明らかになった。このため、今後の研究の主眼は、熱輸送プロセスの理解のウェイトを高くする予定である。
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