2015 Fiscal Year Research-status Report
深層熱塩循環を駆動するエネルギー供給源として海洋中規模渦が果たす役割の解明
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25800260
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 祐希 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80632380)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 鉛直乱流混合 / 熱帯不安定波 / 内部波 / 風下波 / 黒潮 / 蛇行 / 傾圧不安定 / 海底地形 |
Outline of Annual Research Achievements |
主に内部波が砕波することで生じる海洋中の水温躍層深付近における鉛直乱流混合は、表層から深層への浮力の鉛直フラックスをコントロールすることを通じて、全球の海洋循環や水塊形成に影響を及ぼす重要な物理過程の一つである。 報告者は平成27年度までに、赤道太平洋域における水温躍層の鉛直乱流混合に寄与し得る内部波の励起過程を、渦解像海洋大循環モデルを用いて調べてきた。その結果、赤道太平洋では、赤道域の複雑な海流系の順圧/傾圧不安定によって励起され、約0.5 m/sの位相速度で西向きに伝播する波長約1000 kmの熱帯不安定波から水温躍層に向かって下向きに放射される内部波が存在することを発見した。さらに、この内部波は、熱帯不安定波のフロント部で生じる表層水平流の収束域が海面を動く障害物のように働くことで励起される風下波として説明可能であることを示した。また、この内部波に伴う下向きエネルギーフラックスは、赤道太平洋全域の積分では解析期間である2011年1月の1か月間平均で8.1 GWに達しており、赤道太平洋の水温躍層における乱流混合に重要な影響を及ぼしている可能性が示唆された。得られた結果は国内外の学会で発表するとともに、国際誌に投稿した。 平成27年度にはさらに、同様の内部波励起機構が中緯度域における顕著な海流である黒潮域でも働き得るのかを明らかにするために、まず、黒潮から中規模擾乱が励起される過程を調べた。このために、簡単な二層準地衡流モデルを用いた数値実験を行ったところ、紀伊半島の南に位置する膠州海山と呼ばれる海底地形上で傾圧不安定が強化され、黒潮の蛇行が生じることがわかった。そこで海底地形の効果を考慮した線形安定性解析を行った結果、この傾圧不安定は、海山の周りを時計回りに伝播する下層の地形性捕捉波と、黒潮中を東向きに伝播する上層のロスビー波との相互作用によるものであることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度には、全球渦解像海洋大循環モデルを用いた数値実験結果の解析を当初の予定通りに完了することができた。その結果、赤道太平洋の熱帯不安定波のフロント部から内部波が放射されるという現象をはじめて発見するとともに、その励起過程が、海底地形上を流れる定常流によって励起される風下波とのアナロジーによって説明できることを示すことができた。得られた結果は学会発表および論文として国際的に公表することができた。平成27年度にはさらに、中緯度域での数値実験にも着手し、黒潮の蛇行過程を再現することに成功するとともに、この蛇行を引き起こす海底地形の役割について考察を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度には、まず、平成27年度度までに渦解像海洋大循環モデルを用いた数値実験に基づいて発見された熱帯不安定波から放射される内部波(風下波)が、現実の海洋中でも見られるのかを、観測データに基づいて検証する。このために、全球に数多く展開されているアルゴフロートの水温・塩分データを解析する。各フロートが大規模な熱帯不安定波に対してどの位置に存在しているのかを同定するために、熱帯不安定波を再現できる程度に高解像度の再解析プロダクト中の水温・塩分データも合わせて用いる。時空間的に熱帯不安定波のフロント部に位置しているアルゴフロートの水温・塩分に、水温躍層以深まで達する強い偏差が現れていないかを詳細に検証する。 次に、赤道太平洋のみを対象としたより高解像度(数km)の数値モデルを用い、熱帯不安定波の状況をさまざまに変えながらシミュレーションをくり返すことで、熱帯不安定波から内部波が励起される時空間分布を決定する物理要因を同定する。同時に、熱帯不安定波のエネルギー収支を計算することで、風下波の放射が熱帯不安定波の減衰過程においてどのような役割を果たすのかを明らかにする。 最後に、中緯度の黒潮域においても低緯度の太平洋赤道域と同様の過程で内部波が励起されている可能性について検討する。平成27年度までに、海底地形の影響の下で黒潮が傾圧不安定となり、蛇行を発生するまでの機構を明らかにしてきた。このような黒潮の蛇行、およびそれが切離して生じる中規模渦から内部波(風下波)が放射されていないかを、高解像度の数値実験を行って詳細に調べる。
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Causes of Carryover |
平成27年度に投稿し受理された論文の投稿・出版に関連する費用の一部を、平成28年度に支払うことになったため、論文の投稿・出版のために計上していた予算の一部を次年度使用額として計上することとなった。 また、本研究課題の遂行に必要な大型計算機の使用料を、当初、本科学研究費補助金から支払うことを予定していたが、研究代表者が所属する研究グループの共同利用によって、本科学研究費補助金を使用せずに東京大学情報基盤センターの大型計算機を利用することが可能となったため、大型計算機の使用料に計上していた予算の一部を次年度使用額として計上することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
大型計算機の使用料に15万円、研究打ち合わせ旅費に2万円、国内学会での成果発表およびその出張旅費に10万円、国際会議での成果発表およびその出張旅費に35万円、論文投稿料に35万円、論文の英文校閲費に5万円、データ解析および図の描画用のソフトの購入に5万円、データ保存用のハードディスク購入に5万円、本研究課題に関連する専門図書の購入に4万円程度の使用を予定している。
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Research Products
(5 results)