2013 Fiscal Year Research-status Report
四次元変分法データ同化手法を用いた海洋十年規模変動の実態解明に関する研究
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25800269
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
長船 哲史 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, 技術研究副主任 (50638723)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 20年変動 / 潮汐混合 / 潮汐18.6年振動 / 北太平洋 / 海面水温 |
Research Abstract |
本研究の目的は、中高緯度域で顕著に見られる海洋の長周期変動、特に約20年周期の変動(以下、20年変動)を対象として、その実態を把握し、そのメカニズムや気候への影響等を解明する事である。海洋・気候の長周期変動の原因については様々なメカニズムが考えられているが、近年、月の軌道傾斜角の変化に伴う18.6年周期の潮汐力の変動(潮汐18.6年振動)の影響が注目を集めている。潮汐力の変動は、潮流の変動を通じて、鉛直混合強度の変動を引き起こすと考えられる。これに対する海洋の力学的応答の結果、海洋や気候への影響が生じる可能性が指摘されている。しかしながら、その重要性については、十分な検証が行われていない。潮汐18.6年振動は、周期が決まった外力であり、この変動の重要性が確かめられれば、海洋・気候変動の予測精度の向上に貢献する事が期待される。 今年度は、近年実用化された四次元変分法海洋データ同化システムによって得られた最新の長期海洋状態推定を元に、潮汐18.6年振動に伴う鉛直混合の変動を考慮した数値実験を行い、北太平洋における冬季海面水温への影響について解析を行った。その結果、潮汐18.6年振動は、海洋波動の伝播を通じて広範囲の海面水温に影響を与える事、東太平洋において観測されている20年変動に寄与している事が示唆された。この海域は、北太平洋において支配的な気候変動モードである太平洋十年規模振動の変動中心に対応しており、大規模な気候変動にも影響を与えている可能性が考えられる。本年度中には、大気海洋結合システムとしての変動メカニズムを解明すべく、対照実験として、潮汐18.6年振動を組み込んだモデルを用いたデータ同化も行っており、現在結果の解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
潮汐18.6年振動による影響は新規性の高いテーマであり、周期性の決まった外的要因による影響は、海洋・気候の変動の予測精度向上に資する可能性を持つ重要なメカニズムである。したがって、その検証は本研究における最も重要な課題の一つであった。この潮汐18.6年振動が、現実の変動と対応付けられたことは大きな成果と言える。また、感度解析や対照同化実験など、データ同化システムの特徴を活かした研究を推進した事で、当初の予定以上の結果が得られたと考えている。 本研究のもう一つの重要な課題として、大気変動による海洋の十年規模変動への影響の解明がある。これに関しては、はっきりとした結論は得られていないものの、解析自体は進めており、当該システムの問題点や修正すべき点などについては、一定の知見が得られつつある。これをもとに、本務におけるデータ同化プロダクトの精度向上にも貢献した。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に得られた成果について現在論文を執筆中であり、これをまとめて英文誌に投稿する準備を進めている。潮汐18.6年振動の影響は、赤道域や南大洋など他の海域にも現れている可能性が示唆されている。したがって、本年度に行った数値実験の解析を海域を広げて行う予定である。 また、大気変動に由来する長周期変動についても解析を進める。本務では、本研究の解析結果もふまえて、データ同化プロダクトの更新を行っており、これにより海洋表中層における水塊等の再現性が向上している事が期待される。したがって、この新しいプロダクトを使用することで、水塊形成の変動を通じた大気変動の影響等に着目して解析を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
所属組織で計算機システムの入れ替えが計画された為、新たな計算機システムへのデータ同化システムの実装が必要になる可能性が出てきた。この作業を外部発注するのに必要な人件費を確保する為、今年度の使用額を抑えた。また、解析に必要なスペックのパソコンを購入するにあたり、新たな予算範囲で、必要なスペックを満たす製品が見つからなかったため、購入を見送った。 現在、本年度に得られた結果について論文にまとめており、その英文校閲、出版費用等として使用するほか、国内外で行われる学会や研究集会への参加に必要な旅費として使用する。また、解析等に必要なパソコンを購入し、Matlab等、解析用ソフトウェアを購入する。加えて、データ同化システムによる再現性の向上を目指した新たなモデルコンポーネントの導入を目指しており、この作業に関して外部発注を行う予定である。
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