2013 Fiscal Year Research-status Report
長石のカソードルミネッセンスを用いた衝撃変成作用の解明
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25800294
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
鹿山 雅裕 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任助教 (30634068)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | カソードルミネッセンス / 長石 / 天体衝突 / ダイアモンドアンビルセル / 衝撃実験 / 月隕石 / 火星隕石 |
Research Abstract |
火星や月隕石が被った衝突履歴を解明することは、天体表面の岩相分布の解釈や水の存在の示唆、月に関しては41~38億年前に生じた後期重爆撃期における大量の隕石群の衝突と生命誕生の謎を紐解く重要な鍵となることから今日の惑星科学の分野において非常に重要なテーマとなっている。隕石が受けた衝突履歴やクレーター形成時の衝突規模を推定する上で衝突圧力は特に重要なパラメーターであるものの、貴重な隕石試料を破壊することなく高い精度で衝撃圧力を定量的に評価する手法はいまだに確立されていない。 近年、地球上に産する変成岩の温度圧力条件を規定する新たな手法として高空間分解能を有するカソードルミネッセンス(CL)分光法の鉱物、特に長石への適用が期待されている。そのため、本研究では衝撃銃を用いた動的圧縮ならびにダイヤモンドアンビルによる静的圧縮実験により既知の衝撃圧力を加えた長石試料のCL測定から、圧力に伴う長石の発光特性の変化を詳細に記載すると共に、CLスペクトル測定ならびに波形分離解析から衝撃変成作用に起因する構造欠陥の特定ならびに欠陥密度の定量化を試みた。また、火星や月隕石(NWA2977など)に分布する長石の中でも、衝突によりガラス化したマスケリナイトを対象にCL測定から発光メカニズムの解明を行い、高圧実験により得られたデータと比較検討することでCLによる衝撃圧力計の開発を試みる。 CL測定の結果、動的および静的圧縮実験により回収された長石ガラスにのみ特徴的な青色発光が検出され、その発光強度は加えた圧力と相関することが見出された。また、同じ圧力条件であれば静的圧縮実験の回収試料のほうが発光強度はより高いことから、発光強度は圧力保持時間にも依存することが示される。同様の青色発光がマスケリナイトにおいても検出されることから、保持時間を考慮することで隕石が受けた衝撃圧力を推定することが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究では主に地球に産する長石を対象とした動的および静的圧縮実験とその回収試料のCL測定に尽力してきた。長石はNa、KおよびCaを主成分とする三つの端成分からなる固溶体であることから、衝撃変成作用が長石の発光特性に及ぼす影響を解明するためには、化学組成や結晶構造を異にする種々の長石系列に対して高圧実験を行う必要がある。長石鉱物の種類は多いため、高圧実験の回数もおのずと増えることから回収試料の確保に非常に時間を要した。また、それぞれのCL測定ならびに波形分離解析についても大量のデータとなることから実験と解析については当初の予定よりも多くの労力を費やした。 しかし、これら実験及び解析の結果、発光特性はNa、KおよびCa含有量や結晶構造には関係せず、SiおよびAlの量比と衝撃圧力保持時間に依存することが判明し、それぞれの長石鉱物に対して圧力と構造欠陥密度との検量線を得ることに成功した。これを元にSiおよびAlの量比を予め化学分析により評価し、圧縮保持時間を鉱物学的特徴などから推察することで隕石中のマスケリナイトに対して衝撃圧力推定が可能であることが示唆された。この点に関しては当初の予想よりも非常に明快なデータを得ることができ、発光特性に対するSiおよびAlの量比の補正手法についてもおおむね成功に至っている。圧力保持時間については引き続き保持時間を変えてのダイアモンドアンビルによる高圧実験を試みる予定である。このことから保持時間を踏まえたうえでの衝撃圧力推定と惑星科学的応用についての具体的な実現化の道筋が見えてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の計画としてはCL測定による月及び火星隕石に含まれるマスケリナイトの発光メカニズムの解明とCL分光法による圧力推定の実現を試みる。これまで主体的に行ってきた高圧実験から化学組成を異にする長石ごとの圧力と欠陥密度との検量線を得ることに成功した。圧力保持時間の影響を考慮することで実際の隕石中のマスケリナイトに対して圧力推定することが期待される。これまでのCL測定から、高圧実験の回収試料に共通して見られる青色発光がマスケリナイトにおいても検出され、その発光強度は先行研究により報告されている各種火星および月隕石の衝撃圧力に対応している。そのため、より詳細なCL測定ならびに波形分離解析を行うことで、検量線を元に定量的な衝撃圧力推定が期待される。CLは数マイクロメートルもの高空間分解能かつ非破壊分析を可能とすることから、試料量の問題や貴重なためにこれまで種々の分析が適用できなかった隕石試料に対しても圧力推定が可能である。さらにこれを踏まえて一連の月及び火星隕石に対してCLによる圧力推定を試みることで、これまでにない惑星科学への応用が期待される。例えば、種々の年代測定法と組み合わせた後期重爆撃期における天体衝突の規模や頻度を評価、小惑星の集積・分解過程の解釈、さらには隕石が放出した深さの推定から天体における岩相分布解析などが可能となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究計画として、衝撃変成作用が長石の発光特性に及ぼす影響を解明するべく、衝撃銃を用いた動的圧縮実験と回収試料のCL分光分析を行った。動的圧縮実験のために鉱物学的性質を異にする様々な産地の長石を用意し、そのうちアルカリ長石、斜長石およびバリウム長石系列のものについては研究を遂行することができた。しかし、一部の長石(アンモニウム長石ならびにスローソン石など)に関しては、本研究計画の開始時点では所有しておらず、購入のために幾つかの業者を当たったところ、精度の良い動的圧縮実験を実現するために必要不可欠な単結晶試料を入手することは困難であり、適した試料の詮索、X線による鉱物同定ならびに不純物濃度などの化学分析による評価などに時間を要した結果、本年度中にこれらの長石試料を購入することはできず、購入は翌年度となった。この購入費用が次年度使用額に対応する。 次年度の研究計画として主に実際の隕石試料を扱うことから、記載が十分に行われている月隕石NWA2727の購入を検討している。同隕石は天体衝突由来の溶融組織を含み、斜長石の一部がガラス化しているため測定に適した試料といえる。また、一部の種類の長石鉱物については動的圧縮実験が完遂していないため、アンモニウム長石ならびにスローソン石の単結晶試料の購入も併せて考えている。さらに、これらの実験から得られたデータについて共同研究者と詳細な議論をするための打ち合わせや、成果を対外的に発信するための国内外での学会参加に関する旅費等に使用する。
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[Journal Article] Cathodoluminescence microscopy and spectroscopy of forsterite from Kaba meteorite: An application to the study of hydrothermal alteration of parent body2013
Author(s)
Arnold Gucsik, Taro Endo, Hirotsugu Nishido, Kiyotaka Ninagawa, Masahiro Kayama, Szaniszlo Berczi, Szabolcs Nagy, Peter Abraham, Yuki Kimura, Hitoshi Miura, Ildiko Gyollai, Irakli Simonia, Peter Rozsa, Jozsef Posta, Daniel Apai, Krisztian Mihalyi, Mihaly Nagy, Ulrich Ott
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Journal Title
Meteoritics & Planetary Science
Volume: 48
Pages: 2577-2596
DOI
Peer Reviewed
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