2013 Fiscal Year Research-status Report
高縮重電子励起状態における化学反応相の開拓: ホウ素クラスターを例として
Project/Area Number |
25810001
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
米原 丈博 東京大学, 総合文化研究科, 特任研究員 (30645966)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 非断熱電子動力学 / 高縮重励起状態 / 反応制御 / 化学反応場 / レーザー場 / ホウ素クラスター / 量子動力学 |
Research Abstract |
レーザー照射下でのホウ素クラスターと水素分子の反応を取り上げ、電子動力学理論を用い、反応性、電子状態混合、非断熱性、レーザー場パラメーターの相関について調査を行った。クラスターの主要構成原子であるホウ素は価電子空間に高度な非占有性を有する為、凝集すると多様な構造を許す柔軟な化学結合形態並びに、励起状態における高縮重性を発現させる為、非断熱遷移による電子状態の混合が重要となる。 非断熱性の増幅を狙い、レーザーパルスには電子状態にも振動状態にも非共鳴で、中程度強度そして短時間幅の波形を採用した。反応性がレーザー分極方向に強く依存し得ることを示唆する結果を得た。初期状態の選定には、低励起状態面上の遷移状態から反応座標に沿い進めることで得られた軌道を利用した。励起状態で反応しやすい経路領域を選択した事になるが、基底状態では非反応的であり、また、特定の状態に共鳴させる事無く多数の励起状態の重ね合わせで得られる非断熱電子混合下で吸着反応が進行した事を、励起状態群での反応の起こり易さに対応づけた。 励起状態での結合の弱まりに伴う、反応経路沿いの遷移エネルギー障壁の低下や、まだ予測段階であるが、励起状態での結合柔軟性に伴う束縛領域の広域化に伴う長寿命化、エントロピー的な意味での安定化との関連の有無を探る必要があると考える。励起状態が多くなると一般に多数の反応経路が出現し、個々の類別は複雑になることが予想されるが、高縮重系では近接状態間のポテンシャル形状が類似している為、励起状態群毎の平均場近似は反応の探索にとり有効と予想している。また、ホウ素クラスターの励起状態に関し不対電子密度解析を行うことを通じ、今後の研究において電子構造と反応性との相関を探る上で必要となると思われる知見を集積した。以上の一部に関し、7回に渡る学会および研究会で口頭及びポスター発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究計画に先行して、衝突反応にレーザー場を当てた時に生じる電子動力学及び反応特性を、初期電子状態に毎に系統的に調査することができた。ただし、対象領域を高励起状態に広げていることもあり、一定近似下での扱いであることを明示した上で議論する必要がある。その代わり、得られた波動関数を基にして高密度励起状態の電子状態を詳細に解析できた。 試行錯誤を通じ、高度な可塑性と易動度が期待されるフロートな電子成分を抽出する方法を考案し、全体としてみては類別の難しい高縮重電子状態の特性分類に有用な解析ツールとなりえる事を示唆する結果を得た。価電子欠損型原子を主成分とする分子クラスターの高縮重励起状態において進行する化学結合変化に伴う動的電子構造の研究に活用できる。 一方で、まだ遂行すべき課題は多く、非断熱量子動力学に伴う変化と、試験的時間発展により得られたレーザー場分極依存性を持つ反応性軌道が、どの程度の相関を持ち得るのか、また反応性の類別化に有用な要素を時間依存電子波動関数から抽出することがどれほど可能であるかについて、引き続き、系統分類の為の解析、状況を変えた反応シミュレーション計算に加え、高速化を含め系の大規模化に対応し得るプログラムの改良とも連動させつつ調査を進めていく必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
非断熱反応過程に伴う電子場の変化を、電子的に柔らかく外場により変更し易い成分とそうでない成分に着目して解析する。また、得られる知見が、電子波動関数の幾何構造と反応性の関係の調査に有用かどうかを検討する。並行して、外場を含む場合と含まない場合双方に関する電子波束解析を進め、電子動力学に伴う電子揺らぎが反応に及ぼす影響の相違、或いは相似点を調べる事で、非断熱化学反応経路が持ちうる多様性を系統的に調べ上げていく。また、共通の反応性を再現できる電子波束状態の構成が可能かどうか、また、印加するレーザー場の調節によりその定性的な再現が可能かどうかを調べていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度(H25)においては、頂いた予算を予定の科学計算機と必要な専門書籍の購入に当てる事が出来たが、計算機の購入の際、仕様を必要性に合わせたところ費用が少なくて済んだ。この為、若干の余剰分が生じ、次年度使用額の発生につながった。 次年度繰り越し分の使用に関しては、現段階においては、研究を遂行する上で必要な科学計算の為のソフトウェア、或は専門書籍の購入を検討している。H26年度の元の割当分の使用方法については、学会、研究会等への参加費、宿泊費、及び高速科学計算機の購入を予定している。
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