2013 Fiscal Year Research-status Report
溶媒環境依存性に注目したプロトン移動反応の量子ダイナミクスと分子機構の理論的研究
Project/Area Number |
25810003
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山田 篤志 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10390676)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | プロトン移動反応 / 量子古典混合系近似 / 分子動力学シミュレーション / 量子効果 / 溶媒効果 |
Research Abstract |
本研究課題では、量子古典混合系近似に基づく分子動力学シミュレーションを用いることにより、様々な環境下に置かれた溶質分子における溶液内プロトン移動の反応機構、特に量子効果と溶媒効果を分子レベルで明らかにすることを目的としている。今年度は、すでに開発してきた量子古典混合系近似の方法論の範囲内において得られた極性溶媒の水および無極性溶媒のネオンの溶媒中でのシミュレーションの軌跡を詳細に解析することにより反応機構を議論した。溶媒の極性の有無により反応速度が定性的に大きく異なることは古典近似した場合には遷移状態理論から、量子力学的にはマーカス理論から見積もられる傾向と一致することが本課題で行った完全古典近似と量子古典混合系近似のシミュレーションによりそれぞれ示されている。これらの代表的な反応理論からは得られない詳細な分子構造と運動に基づく反応機構を議論した。特に、反応核を量子化したことにより初めて得られるトンネル移動のダイナミクスを異なる性質の溶媒種の系の間で比較した。時間依存の反応ポテンシャル曲線の形状とトンネル遷移およびそれらの統計的解析により、熱力学的に平均化した反応自由エネルギー曲線を用いて議論している反応理論からは得られない詳細な量子動力学的な描像が明らかとなった。今年度はさらに、反応に対する量子動力学的な描像あるいは溶媒からの量子効果への影響をより深く詳細な量子物理から明らかにするための方法論開発を行うべく、本課題で採用している量子シミュレーションの手法そのものについての改良案とそのための解析手法についての検討も行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画では、これまでに開発した量子古典混合系近似による分子動力学シミュレーションを用いて、まずは異なる温度でのシミュレーションを行うことにより反応機構の温度依存性を検討する予定であった。ここで近年の世界的な研究の進展や本研究課題の意義などから総合的に判断し、反応機構の深く詳細な物理化学を議論するため、当初の研究計画を遂行する前に量子動力学シミュレーションの手法および解析方法の検討を行うことを研究計画に追加した。これまでの手法では振動状態間の量子コヒーレンスの消失の扱いは速いデコヒーレンスの極限近似による簡便なものであったが、分野の異なる先端的な量子物理学の近年の進展を導入しながら物理化学あるいは分子科学のさらなる発展を図り、より適切な量子コヒーレンスの扱いを導入する方が意義が大きいとの考えに至った。この改良したシミュレーションと解析手法の開発に成功すれば、得られた量子動力学のトラジェクトリから量子コヒーレンスまで含めた化学反応機構の詳細な議論ができる。その上で溶媒種および熱力学的環境の依存性の研究へと展開が可能であり、従来では知ることのできなかった知見が得られる。このような考えのもと、今年度は新しいシミュレーションと解析の手法の具体的な構想を固めた。当初の研究計画からは進捗がやや遅れてはいるものの、新たな内容を加えた研究計画は順調に進捗している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は「現在までの達成度」で述べたように、今年度に構想を固めた量子コヒーレンスをより適切に記述できる新しい量子動力学シミュレーションと解析の手法を実際の計算に移す。まずは反応物および生成物の間の振動状態間のデコヒーレンス時間の計算を凍結ガウス法に基づく計算から見積もる。この時、分子内と分子間相互作用の寄与、溶媒種依存性および温度依存性を検討する。また、溶媒との相互作用という”観測”により引き起こされるデコヒーレンスの結果として現れる量子状態の計算を量子物理学に基づいて計算する。これらの解析を量子動力学シミュレーションに取り入れた手法を開発し、計算プログラム作成と検証のためのテスト計算を次年度1年間を目途に行う。同時に、溶媒中の反応の温度依存性のシミュレーションにも着手する予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は計算機を購入予定であったが、内容に追加の検討事項が生じたため本格的な計算は行わず次年度に行うこととした。よって、計算機は次年度に購入することとした。 計算機の購入後は、追加の検討事項が終了した後ではあるが、当初の予定に沿って溶液内反応の温度依存性の研究を行うべく計算機を使用する。
|