2013 Fiscal Year Research-status Report
励起エネルギー移動理論の大規模化の実現と生体分子への応用
Project/Area Number |
25810004
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
藤本 和宏 神戸大学, その他の研究科, 講師 (00511255)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 量子化学 / 励起状態 |
Research Abstract |
フェルスター理論が発表されて以降、励起エネルギー移動に関する数多くの理論的研究が行われてきたが、電子的カップリング(光励起・脱励起に関わる電子の相互作用)の計算が可能な系しか研究対象とされてこなかった。私が考案したTDF-TI法は従来法では適用外であった系に対しても電子的カップリングの計算を可能にしてきたが、本研究ではこの手法を大規模系へ拡張することを試みた。これまでのTDFI-TI法では溶媒やタンパク質といった環境の効果を取り込むことができなかったが、多層QM/MM法の導入によってこの問題を解決した。プログラム作成の際、ハイブリッド並列(MPI+OpenMP)による計算の高速化にも取り組んだ。更に、TDFI-TI法をハミルトニアン行列の行列要素の計算に使用することで大規模系に対する励起状態計算を可能とした。 今回開発した手法をテトラセン分子結晶へ適用した。ブチル基を有したテトラセン誘導体の分子結晶は2種類の吸収波長(赤色:BURと黄色:BUY)を示すことが知られている。この現象は結晶中における分子のパッキング様式の違いに起因することが分かっており、クリスタロクロミーと呼ばれている。TDFI-TI 法を用いた励起状態計算の結果、BURとBUYの吸収波長の違いは単量体の捻じれの違いよりも分子間相互作用の寄与が大きいことが分かった。BURの場合、電荷分離状態と局所励起状態の混合が6量体まで影響するのに対して、BUYの場合はその影響は2量体ですらほとんど確認されなかった。したがって、BURとBUYの吸収波長の違いで最も大きな寄与は多量体効果であることが分かった。更に、この多量体効果は分子同士が向き合った状態(Face-to-Face型)で顕著になることを解き明かした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①多層QM/MM法をTDFI-TI法と組み合わせることで、溶媒やタンパク質といった環境を取り込んだ電子的カップリングの計算が可能となったため。 ②本研究で作成した手法が実際にテトラセン分子結晶に適用できたように、大規模系に対するTDFI-TI計算が実現したため。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には交付申請書に基づいて今後も研究を行う予定である。予定していたプログラムの作成は現在までにほぼ終わったので、残りの時間はできるだけ応用計算に充てて行きたい。現在までにテトラセン分子結晶への適用に関しては大きな成果が得られたので、今後はタンパク質にも適用して行く予定である。タンパク質の研究を行う際、TDFI-TI法を適用する以前の段階(分子モデルの作成や分子動力学計算)に時間を要する可能性があるので、できるだけ効率的に研究を遂行できるようにして行きたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初予定していたよりも旅費に使用した金額が少なくなったため。 学会や研究会に出席するための旅費に使用する。
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