2014 Fiscal Year Research-status Report
電子の電気双極子モーメント探査にむけた高精度相対論的分子理論の開発
Project/Area Number |
25810007
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
阿部 穣里 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (60534485)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 電子EDM / 有効電場 / 相対論的量子化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
電子の電気双極子モーメント(EDM)は、CP対称性破れを示す有力な証拠である。約半世紀の間、原子を用いた分光実験で検出が試みられているが、いまだ有限値としては求められておらず、誤差の値からEDMの上限値を評価している。近年では分子を用いた分光実験によるEDM探査が高感度であるため有力視されいてる。しかし観測値には相対論的電子状態理論でしか求まらない有効電場というパラメータが含まれているため、高精度な分子理論計算が必須となる。そこで本研究では、有効電場を高精度に求める理論・プログラム開発を行い、多種の2原子分子の有効電場を計算する。 当該年度においては、まず開発した理論とプログラムに関する研究成果を学術誌に発表した。(Phys. Rev. A) そして開発したプログラムを用いて、SrF分子の永久双極子モーメントに関して実験値と比較を行い、本手法の有用性を示した。(Phys. Rev. A) さらに水銀を含む数種の分子の有効電場を計算することで、実験に適する新たな分子の提言を行った。(Phys. Rev. Lett.) またより電子数の多い系では計算コストが甚大になるため、プログラムの並列化を行い、複数コアを用いることで計算速度を速められるように改良した。初期的なテスト計算においては、8コアで並列化すると、計算時間が約半分にすることができるようになった。しかし計算機や対象分子によってまだ不安定な問題が残っており、インドのスーパーコンピュータであるCDACの技術者とともに改良を行っている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
理論開発に関し、電子EDM実験対象として有力候補の一つであるYbF分子の有効電場計算を行い、Phys. Rev. A誌に論文が掲載された。また本手法を応用した研究として、SrF分子の永久電気双極子モーメント(PDM)の理論研究を行った。これは相対論的にも電子相関法的にも非常に高精度な本手法が、実験値のあるSrF分子のPDMをどれだけ再現するかを調べたものである。 さらにハロゲン化水銀分子における有効電場の理論研究を行い、最近Phys. Rev. Lett.誌に採択された。特にHgCl,HgBr分子については、CP対称性破れの証拠となる電子EDM実験において新たな、そしてより強力な候補分子を提案することに成功した。このように、3本のコアとなる論文発表を行うことができ、大きく課題が進展したと考えている。引き続き多くのアプリケーションを行っていきたいと思う。
|
Strategy for Future Research Activity |
まず並列化計算が安定的に行えるように、プログラムの改良を行う。さらに国内で電子EDMの測定が取り組まれている、FrSr分子とBiO分子について、有効電場を求める。またCP対称性破れを示す指標は電子EDM以外にも存在する。例えば核内のクォークと電子の相互作用であるスカラー・擬スカラー(SPS)相互作用があげられる。SPS相互作用に関しても、理論・プログラム開発を行い、電子EDMの有効電場同様、理論計算が必要となる増幅因子係数を求める。
|
Causes of Carryover |
人件費を確保するため大きな物品を買わず、結果として5万円程度の差額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の会計と合算して、人件費や旅費などに組み込む。
|