2013 Fiscal Year Research-status Report
近接場超短パルスによるプラズモン波束のコヒーレント制御
Project/Area Number |
25810013
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
西山 嘉男 分子科学研究所, 光分子科学研究領域, 特任助教 (40617487)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | プラズモン / 波束 / 近接場 / 超短パルス |
Research Abstract |
本研究では近接場超短パルスによって貴金属ナノ構造体、特に金ナノロッド内にプラズモンの波束を生成し、そのダイナミクスを時空間分解測定によって観測、さらにパルスの位相変調によって波束を制御することを目的としている。本年度では、まず超高速近接場測定装置の改良を行った。分散補償光学系における分散補償ミラーの導入や検出器の変更によって装置の感度や安定性を著しく向上させることができた。また、実験試料である金ナノロッドの設計・作成を電子線描画法により行った。近接場測定に適した試料サイズ(特に厚さ)に関して実際の近接場測定を行いながら検討を重ねた結果、最適化した厚さ(約20ナノメートル)では様々な長さのロッドでのプラズモン波動関数が近接場像として明瞭に観測されるようになった。その後、照射超短パルスで複数のプラズモンモードが励起できるアスペクト比の高い金ナノロッドを作成し、時間分解近接場測定を行った。その結果、ロッド内部においてプラズモン位相緩和過程の位置による変化を観測した。さらに、時間分解近接場像に関しても特徴的な時間変化を明瞭に観測することができた。また、定常近接場透過分光測定を行い、励起される各プラズモンモードの共鳴波長や空間構造を実測した。これらの測定の結果、時間分解近接場像で観測された時間変化はプラズモンの波束のダイナミクスに対応することがわかり、数値計算によりこれを再現することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は装置開発および金ナノロッド試料の作成を目的としていた。装置開発においては感度の大幅な向上に成功し、試料作成において近接場測定に最適な設計条件を見出すことができた。さらに、次年度に予定していた測定に関しても一部開始し、プラズモン波束のダイナミクスに相当する時間分解イメージを得ることにも成功した。一方で、装置の開発の面ではいくつか想定外の事態が生じた。一つはパルス幅の問題である。当初は10fsへ短縮することを予定していたが、アライメントエラーや装置の安定性に関して問題が生じることがわかったため、15fsのパルスで測定を実施することにした。ただし、このパルス幅の状態でも波束の観測は十分に可能であり、研究計画の遂行には支障がないと考えられる。また、当初はピンホールを用いて信号光を空間分解することを予定していたが、熱ドリフト等の影響により信号光の空間分解イメージを得ることは困難であることがわかった。これに対しては代替案の一つとして、現状の信号光全体を検出した時間分解近接場像と数値計算等との比較により波束のダイナミクスをとらえることができないか検討した。2つのモードを励起した単純な系では測定された時間分解像に特徴的な波束のダイナミクスが反映されていることが明らかとなっており、より多くの系に拡張できる見通しが得られた。総合すると、全体目標を達成する上では研究計画は順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在進行している、金ナノロッドの時間分解近接場測定を引き続き行う。よりアスペクト比の高い金ナノロッドではさらに多くのプラズモンモードが励起できるため、これを作成し時間分解近接場像を通して波束のダイナミクスを観測する。その後、現在のシステムに液晶空間位相変調器を導入することで波束制御のための波形整形を可能にし、能動的に位相変調したパルスでの時間分解近接場測定を行うことで波束の変化を観測する予定である。また、同様の実験をナノロッドと色素の複合系に関しても行う。一方、当初行う予定であった空間分解検出に関しては、別の方法として現有のCCDカメラを用いることが可能であるか検討する。その際、検出器の感度が問題となるが、基板に非線形光学媒質のウエハーを用いることで非常に強い二倍波が観測され、十分な感度が得られるのではないかと期待される。基板上に金ナノロッドを作成し、近接場測定を行うことでこれを検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の計画では予想していなかった備品を購入する必要が生じた。まず、近接場測定に用いていたステージが不具合をきたしたため、新規のものを購入せざるを得なかった。さらに、金ナノロッドは最適な試料厚さが予想よりも薄くなったため、現有の分光検出器では測定することが難しく、そのため新規のものを購入する必要が生じている。これは納期の関係上、次年度に購入を行う。一方、測定感度の劇的な向上により、当初購入を予定していたシングルフォトンカウンティングモジュールを用いずとも測定を行うことが可能となったため予算の都合上購入を取りやめた。これらの購入品の変更により当初の使用額から誤差が生じる結果となった。 50万円以上の備品となる物品の購入は予定していない。備品としては分光検出器(50万円以下)を購入する。消耗品として、二光子蛍光プローブ用の色素、非線形光学媒質のウエハー、厚みのあるウエハーに対応した対物レンズおよび、その他ミラー等の光学部品を購入する。また、国内学会での講演、論文誌投稿により研究成果を発表する予定であり、そのための経費を計上する。
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