2013 Fiscal Year Research-status Report
大規模生体分子におけるスピン軌道相互作用の解析手法の開発
Project/Area Number |
25810015
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
中田 彩子 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (20595152)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 密度汎関数理論 / 大規模計算 / オーダーN計算 / スピン軌道相互作用 |
Research Abstract |
本研究課題は、電子相関を効率的に扱うことのできる密度汎関数(DFT)法に基づいた相対論計算を、計算コストを大幅に削減することのできるオーダーN法と組み合わせることで、大規模分子におけるスピン軌道相互作用を解析する手法を開発することを目的としている。スピン軌道相互作用を取り扱うには二成分相対論計算が必要であり、我々の開発しているオーダーN-DFTプログラムCONQUESTに二成分法の導入を行うことにより、より現実に近い大規模モデルに基づくスピン物性のシミュレーションに取り組む計画である。 当該年度では全角運動量量子数に依存したノルム保存型擬ポテンシャルをCONQUESTに導入することにより二成分計算を実装する計画であり、現在実装を行っている最中である。その際にベースとなる非制限計算プログラムによる磁性体計算の予備検証も行っている。 また当該年度には、CONQUESTにおける更なるコスト削減のために、以前から開発していた精度を維持しながら基底関数の数を大幅に減らす方法に関して効率的に並列化する手法を導入した。この方法により、数千原子を含む生体分子の状態密度図などを高精度に計算することに成功した。この方法は二成分相対論計算にも応用可能であり、通常より計算コストの高い二成分計算を大規模生体系に応用する際にも有効な手段になる。 また、軌道エネルギーの計算精度を高めるための手法開発を行った。この方法では、従来のDFT交換汎関数では不十分であった長距離相互作用の取り込みと自己相互作用誤差の補正を行うことで、軌道エネルギーから分子のイオン化ポテンシャルや電子親和力などを高精度に見積もることに成功した。軌道エネルギーの記述精度は励起状態計算において重要であり、また計算コスト的に励起状態計算が困難な場合においても、軌道エネルギーからある程度定性的な議論を可能とすることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では非制限計算に基づく二成分相対論計算のCONQUESTへの導入を当該年度に実施する予定だったが、それに先駆けてCONQUESTでの計算コスト削減のための手法開発及びDFT計算での軌道エネルギーの計算精度改善に取り組んだため、遅れが生じてしまった。これらの手法は二成分計算やそれに続く励起状態計算にも応用できるため重要であり、二成分計算の導入よりも先に完了させておく必要があった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では、当該年度で予定していた二成分相対論計算手法のCONQUESTへの導入をまず完了させる。この導入では、二成分型のノルム保存型擬ポテンシャルを導入し、スピン軌道相互作用の取り込みを行う。それに伴い、ノンコリニアな交換相関汎関数の表式をCONQUESTへ導入する。 その上で、次年度で予定していた、相対論効果の局所性に関するアセスメントを行う。相対論効果がある程度局所的であった場合には、計算コストを削減するために、取り扱う系において注目する部位にのみ相対論効果を取り込み、周囲の原子に関する非相対論DFT計算と組み合わせる手法の開発に取り組む。 また、CONQUESTを用いた励起状態における二成分相対論計算の方法を開発する。CONQUESTには実時間発展TDDFTによる励起状態計算の手法が実装されている。この実時間発展TDDFTを二成分相対論計算に拡張することにより、励起状態におけるスピン禁制遷移の時間変化を検討することを目指す。励起状態計算の二成分相対論計算への拡張は、基本的には基底状態と同じく、擬ポテンシャルへのスピン軌道相互作用の導入、ノンコリニアな交換汎関数の導入によって行う予定である。また、励起状態計算においても基底状態ほどではないものの、カットオフ領域の導入によって計算コストを減らすことができると考えている。現在の進捗状況がやや遅れているため、励起状態計算に関しては、実時間発展TDDFTの代わりに対角化に基づくTDDFTを用いるなど、計画を変更する必要が生じる可能性があると考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初ワークステーションの購入を検討していたが、他研究機関スーパーコンピュータの共同利用サービスを利用するほうが効果的と判断したため、ワークステーションは購入せずに、利用負担金を支払いスーパーコンピュータを借用した。その差額により次年度使用額が生じた。 次年度も他研究機関スーパーコンピュータの共同利用サービスを継続して利用する予定でいるが、次年度では本年度よりも申請する計算資源量を増加しようと考えているため、次年度使用額を利用負担金の増加分に充てる予定である。
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