2013 Fiscal Year Research-status Report
有機テルル化合物の光反応性の解明と、リビングラジカル重合への応用
Project/Area Number |
25810021
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 泰之 京都大学, 化学研究所, 特定准教授 (30456826)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ラジカル反応 / ラジカル重合 / 光反応 / テルル / 高分子 / 量子収率 / 制御重合 / リビングラジカル重合 |
Research Abstract |
有機テルル化合物について、光反応による炭素―テルル結合開裂によるラジカル生成の量子収率の決定を行った。ポリメタクリル酸メチル重合末端を模した構造の有機テルル化合物(化合物1)とTEMPOの混合物に水銀ランプを用いて光照射を行い、有機テルル化合物から生成した炭素ラジカルとTEMPOが結合した生成物を得た。この反応について量子収率を決定したところ、予想を上回る高い値である0.89であった。この値は既存の一般的に用いられる光ラジカル開始剤を上回る値であることから、有機テルル化合物を用いる光反応の高効率性が確認された。 炭素―テルル結合開裂における炭素側の置換基として上記の構造以外に、ポリアクリル酸メチル重合末端を模した構造、ポリ酢酸ビニル重合末端を模した構造、tert-ブチル基、イソプロピル基、デシル基を持つ有機テルル化合物を合成した。これらについて上記と同様にTEMPOとの光反応、紫外可視吸収スペクトルの測定、および炭素―テルル結合について結合解離エネルギーの理論計算を行った。その結果、結合解離エネルギーの高い構造の化合物ほど光反応の効率が低いことがわかった。今後は光反応効率と光吸収特性との関係を明らかにすることを試みる。 一方、有機テルル化合物を連鎖移動剤とした光照射下での酢酸ビニルのリビングラジカル重合を、化合物1を用いて行った。しかし現在のところ、高い重合効率(モノマー消費率が高くなる)と高い重合制御(分子量、分子量分布の制御が行われる)はいずれも達成されておらず、重合条件の精査とともに、用いるテルル化合物の検討が必要である。 一方、当初の研究計画には含まれていなかった、有機テルル化合物の効率の良い光反応性を利用したポリマーラジカルの反応について、合成反応への応用や、重合反応解析における成果を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
有機テルル化合物の光反応量子収率を決定する実験手法の確立に多くの時間がかかった。また、今後さまざまな構造の有機テルル化合物の量子収率を決定するにはまだ最適な手法とは言えないと考えられるため、今後も実験手法の検討は必要である。 光反応性と化合物構造の関係を探るための、新規な構造有機テルル化合物の合成については、比較的単純な構造を持つ化合物の合成は順調に進んだが、より複雑な構造を持つ化合物の合成はあまり進んでいない。今後は、この点に注力する必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画に沿い、有機テルル化合物の構造と光反応性を、量子収率測定により明らかにする。このためには現在は進捗が遅れている新規な構造のテルル化合物の合成を加速する必要性がある。これまでは光反応による有機テルル化合物の炭素―テルル結合開裂について、炭素側の置換基を主に検討したが、今後はテルル上の置換基の構造と光反応性の関係を明らかにするための化合物合成をまず行う。そしてこれらの合成および光反応性の検討から、酢酸ビニルの重合に適した化合物を開発する。 一方で、有機テルル化合物を用いた酢酸ビニルの重合を、現在すでに合成した有機テルル化合物を用いて行い、とくに光照射を用いた重合における問題点および、有機テルル化合物の構造を変えること以外の問題点(温度など重合諸条件)を再確認する。具体的には、酢酸ビニルのラジカル重合では、反応温度が低いほど頭―頭結合の生成が抑えられることが知られている。しかしこれまで有機テルル化合物を用いた酢酸ビニルの重合は低温では検討されていない。まずこれを検討することで、現在すでに開発されている方法を用いての酢酸ビニルの制御重合について、有効性と限界を明らかにする。そののちは、これを基盤として新規テルル化合物の適用などをもって、高度な制御重合法の確立を行う。
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Research Products
(3 results)