2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25810034
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宇部 仁士 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (00512138)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 貨幣金属クラスター / 金属交換反応 / 金属配列 / 芳香族化合物 |
Research Abstract |
本研究では炭素をテンプレートとする貨幣金属クラスターとして、ホスフィン金(I)錯体が6個炭素に結合した、2価のカチオン性金クラスターを基盤とし、金属交換反応を用いた混合貨幣クラスターの創製を目指している。本年度はカチオン性金クラスターにおける銀錯体との金属交換反応、および交換反応におけるホスフィンの効果について詳細な検討を行った。 申請者は既に金クラスターを溶媒中、銀(I)ホスフィン錯体と混合することにより金属交換反応が起こり、金―銀混合クラスターが生成することを質量分析により確認している。今回、重クロロホルム中で交換反応を行ない、低温でNMRを測定したところ、遊離の銀錯体とは異なる銀と結合したリンのシグナルが観測された。再沈殿操作により遊離の銀錯体を除いてもシグナルが観測されたことから、溶液中においても混合貨幣金属が安定して存在することが明らかとなった。反応条件を適切に選択することで、銀を85%の効率で(うち33%は銀が二つ交換している)クラスター中に導入することに成功した。現在、分子構造を明らかにすべく、X線結晶構造解析に向け再結晶を検討している。 次にホスフィン配位子の影響について検討を行った。シス選択的な銀イオンの交換をめざし、ビス-銀(I)ホスフィン錯体を用いて金クラスターとの交換反応を試みた。望みの金属交換反応は観測されなかったが、金属間の配位子交換反応が観測された。このことはクラスター形成後に貨幣金属上の配位子を交換することでクラスターの性質を変化できることを示唆するものである。また、かさ高いホフフィンを配位子として用いた際に金5個が結合したモノカチオン性のクラスターが形成することが知られているが、従来の合成法では不安定な合成中間体を使用する必要があった。今回より簡便な合成法の開発に成功し、このクラスターの金属交換挙動、及びその物性に興味が持たれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度はホスフィン配位子に着目しながら金、および金―銀混合クラスターの性質について探索を行なった。物性についてはNMRを用いて溶液中で混合クラスターが存在していることを明らかとすることができた。物性の詳細な検討についてはNMRのみが行なえているが、80%を超える銀への変換効率を達成していることから、単離精製を行なうことで更なる物性の探索が可能であると考えている。さらに新たな知見として、これまで用いてきた金クラスターと組成が異なるクラスターについて、安定に供給を行なう方法論を確立することができたため、この化合物を用いた新規貨幣金属混合クラスターについて検討を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、大きく二つに分類し、1) 芳香族化合物の金による修飾、 2) 炭素原子をテンプレートとするカチオン性貨幣金属クラスターの適用範囲の拡大、に焦点を当て研究を進める。種々の典型金属元素と金との金属交換反応を用いた芳香族化合物への金の導入法が知られているが、芳香環、特にベンゼン環に金属を任意に並べる一般的手法は確立されていない。そこでまずは種々の典型金属を用いて金を芳香環の1,2-位に並べる手法を確立し、多置換の金―芳香族化合物へと展開する。 また、炭素原子をテンプレートとするカチオン性貨幣金属クラスターの適用範囲の拡大については、銀のみならず銅錯体を用いた三種混合貨幣金属クラスターの合成を進めて行く。銀が金属交換反応でクラスターに導入されることが明らかとなっており、この金―銀混合クラスターを出発原料とし三種混合貨幣金属クラスターの合成を目指す。また、合成法を確立したモノカチオン性の5配位金クラスターについても混合貨幣金属クラスターの形成を目指す。昨年度の知見よりクラスターのホスフィン配位子は交換が容易であるため、ホスフィンを交換することで金属の形式的な付加反応を行なうことで数や位置が規定されたクラスターの合成を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1) X線単結晶構造解析の解析に用いる機器の測定費用を見込んでいたが、適当な結晶を得ることができず測定が行なえなかった。 2) 種々の金錯体、および金塩の購入を計画していたが、在籍する研究室に原料となる金塩の在庫があることが分かり、購入量を減らすことができた。また、本年度に調製する見込みの金および他の貨幣金属錯体の種類が当初の計画より多くなることが予想された。 これまでの知見でホスフィン配位子が金クラスターの組成や性質に大きく関わっていることが明らかとなっている。貨幣金属混合クラスターの性質を明らかにするためには多様なホスフィン配位子を用いて金クラスターを調製し、対応する貨幣金属ーホスフィン錯体を反応に供することとなる。これらの錯体をホスフィン毎に調製し、形成する貨幣金属クラスターの性質を明らかとしていく。 クラスターの構造を明らかとする有力な手法としてX線結晶構造解析が挙げられる。在籍する研究室にもX線照射装置はあるが、より高強度の線源を用いる場合、外部装置を使用する予定であり、測定費用が見込まれる。
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