2013 Fiscal Year Research-status Report
繊維化プロセスにおける家蚕絹フィブロイン非繰り返しドメインの役割の解明
Project/Area Number |
25810124
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
鈴木 悠 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90600263)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 液状絹 / NMR / 繊維化プロセス |
Research Abstract |
本研究課題の目的は、絹フィブロインの繊維化プロセスにおける凝集コントロール機構の解明である。絹フィブロイン中の非繰り返し領域の立体構造に着目しているが、それを達成するには、まず、絹フィブロインの主要構成要素である繰り返し領域の立体構造決定ならびにNMR法における化学シフトの決定を行う必要がある。 そこで本年度は、家蚕体内に貯蔵されている液状絹を溶液NMR法を用いて構造解析を行い、絹フィブロイン中の繰り返し配列の立体構造決定という成果をあげた。 具体的には、液状絹を家蚕から取り出し、溶液NMR用試料管に封入し溶液NMR測定を行った。各種測定から、家蚕絹一次構造の主成分である繰り返し配列Gly-Ala-Gly-Xaa-Gly-Ala (X=Ala, Ser, Tyr, Val)中の各アミノ酸残基の水素・炭素・窒素化学シフトの帰属を行うことができた。一方、Gly-Ala-Ala-Ser-Gly-Ala配列は、特定の構造をとらないランダムコイルであることがわかった。さらに、化学シフトを構造予測プログラムtalosにインプットすることでGAGXGAG配列の立体構造の検討を行った。その結果、X = Ala, Ser, Tyr, ValそれぞれTypeII b-turnの繰り返し構造に近い構造であることが明らかとなった。 本研究成果の意義は以下の点である。①液状絹状態における、絹フィブロイン中の繰り返し領域の立体構造を決定した ②液状絹そのものの溶液NMRによる解析が可能であることを示した ③非繰り返し領域(マイナーピーク)の帰属・解析を行っていく上で必須である、絹中の90%以上を占める繰り返し領域(GAGXGA)(X=A, S, Y, V)の各アミノ酸残基の帰属を達成した。 本研究成果は、国際誌に投稿し受理された。(Biomacromolecules 2014(15)p104-112)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究のポイントのひとつであり最もユニークな点は、モデルペプチドや切り出した一部のタンパク質ではなく、ネイティブ状態である液状絹そのものを観測対象とし、繊維化プロセスにおける構造変化を明らかにする、という点である。 現在までの研究において、蚕体内から直接取り出した液状絹を測定試料として、各種多次元溶液NMR法を用いて、各アミノ酸由来のシグナルが帰属可能な程度に分解能のあるスペクトルが得られることが確認できた。また、これまでの研究で用いた試料は部位特異的な安定同位体ラベルを施していないため、絹フィブロインの90%以上を占める繰り返し領域の信号が多数を占める。今後、非繰り返し領域に特異的に安定同位体ラベルを施した試料を測定する際にも、90%以上という高い存在割合の繰り返し領域の信号と目的の信号である非繰り返し領域由来の信号と区別する必要がある。現在までの研究によりこの繰り返し領域由来の信号の帰属が達成されたため、今後行っていく非繰り返し領域由来の信号の帰属において、有益な情報を得ることができた。 また、現在までにuniform-13Cラベルグルコースを蚕の餌に混ぜて与えることで13Cラベル絹の生産を行い、その13C NMRシグナルの面積比から安定同位体ラベル率を決定することができた。今後の安定同位体ラベル試料の生産において有益な情報である。 上記の件をまずクリアすべき課題として優先したため、初年度の計画のひとつである非繰り返しドメインの大腸菌発現系の構築については、現在進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、非繰り返しドメインの解析を中心に行っていく。具体的には、来年度は以下の点を進める。(1)H鎖N末端、C末端ドメイン、及びL鎖の大腸菌大量発現系の構築を行う。 立体構造を決定するためのNMR 解析に用いる家蚕絹フィブロインH鎖、L鎖の組換えタンパク質を得る為、大腸菌を用いた各タンパク質の大量発現系の構築を行う。まずは、pET28a の発現ベクターを用いて遺伝子改変プラスミドを作成する。家蚕(Bombyx mori)は既にゲノムが明らかとなっており、家蚕絹フィブロインH鎖、L鎖のcDNA 配列はこれを用いる。プラスミドを大腸菌に形質転換し、タンパク質を大量生産し、Ni-NTA カラムおよびゲル濾過カラムで精製する。各タンパク質はオリゴマーを形成することが予想される。大腸菌内での凝集により発現が困難な場合には、無細胞タンパク質合成(細胞抽出液、アミノ酸、目的タンパク質の遺伝子等を加え、試験管内でタンパク質を合成)を行う。 次に、安定同位体ラベルタンパク質の生産と、溶液NMRによる立体構造決定を行う。構築した大腸菌大量発現系を用いて13C, 15N 安定同位体ラベルラベルタンパク質を生産する。多次元溶液NMR法を用いて各ドメインタンパク質の立体構造決定を行う。具体的には、1H-13C HSQC,1H-15N HSQC 測定により各炭素原子、窒素原子の帰属、HCACO, HNCO 測定によりカルボニル炭素、アミド水素の帰属を行う。これらの帰属結果と、1H-1H NOESY, TOCSY 測定結果を合わせ、すべての水素原子の帰属を行う。このようにして決定した各原子の化学シフトと水素核間の距離情報から、各タンパク質の立体構造を決定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
国際会議参加旅費を計上していたが、所属機関内の国際会議参加旅費助成に採択され、そちらで支出したため未使用額が生じた。 タンパク質の大腸菌大量発現系構築にかかわる物品の購入について、実験の進捗状況により未使用額が生じた。 タンパク質の大腸菌大量発現系構築にかかわる未購入物品について、研究の進捗状況を鑑みながら購入する。具体的には、ゲルろ過カラム、大腸菌によるタンパク質大量発現試薬等を購入する。
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