2013 Fiscal Year Research-status Report
血中滞留性がABC現象に及ぼす効果およびABC現象回避型がん診断治療薬の開発
Project/Area Number |
25810125
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
上田 一樹 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10615040)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | SPECT診断 / ラクトソーム / 血中半減期 / 腫瘍イメージング / がん診断 / ABC現象 / 高分子ミセル / ブロックコポリマー |
Research Abstract |
ラクトソームの初回投与時の血中半減期とABC現象との関係を調査した。具体的には、3本のサルコシン鎖を有するA3B型両親媒性分子のラクトソームと、それにAB型両親媒性分子を10%混合したラクトソーム、を用いて評価を行った。 キレート剤DOTAをポリ乳酸に導入した化合物DOTA-PDLAを合成し、DOTAへの111インジウム(In)の標識法を確立し(標識効率60%)、In標識ラクトソームの調製に成功した。この標識ラクトソームをマウスに投与し、各ラクトソームの血中半減期を求めた。A3Bラクトソームでは6.8時間、A3B+ABラクトソームでは6.7時間であり差がみられなかった。一方、ABC現象の有無には違いがみられた。投与3時間後の血中残存率を比較すると初回投与時はA3Bが41%、A3B+ABが37%とほぼ同様であったのに対し、2回目投与において、A3Bは26%、A3B+ABは14%と大きく差がみられた。 ICG標識ラクトソームを用いたin vivo蛍光イメージングの結果、およびELISAから求めた抗体産出量も同様の結果を示した。これらの結果から、混合したAB型が免疫系に認識された可能性が考えられる。AB型を10%混合させただけではラクトソームのサイズも血中半減期もほとんど変わらないが、抗体産出には大きく影響することを明らかにした。 一方で、これらの基礎研究からA3BラクトソームがABC現象を軽減できたことからIn標識A3Bラクトソームを用いて、当初の予定で2年目(26年度)に行う予定であったSPECT/CTを用いた固形癌のin vivoイメージングを先に実施した。担癌マウスにIn標識ラクトソームを投与し、24時間後にSPECT撮像を行った結果、正常組織への集積は見られず右大腿部の腫瘍部位のみが鮮明に強調された画像を得ることができた。このことからA3Bラクトソームはがん診断プローブとして有用であることを示された。また蛍光イメージングにて頻回投与においても初回と同程度の解像度にて腫瘍をイメージングできることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的であった実験はすべて完了し、さらに、その研究成果および得た知見を利用することで2年目の予定であった応用研究にも着手できている。 十分新規な知見は得たものの、しかしながら当初の目的であるABC現象を回避する汎用的指針の確立には至っておらず、2年目にも行う必要があると考える。 一方で、応用研究に至っては、3つの課題(①ABC現象回避したナノキャリアの開発、②腫瘍イメージングプローブとしての発展、③がん治療薬としての開発)のうち①と②の2つの問題はすでに解決・成功しており、順調な成果を得ている。この点で非常に優れた進捗である。 2年目には③の達成と基礎研究を行うことで当初の目的以上の知見を得ることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
応用研究については、予定どおり放射性同位元素90イットリウムを標識したラクトソームを用いて治療実験を実施する。放射線核種のDOTAへの導入はインジウムで確立しておりイットリウムでも同様に可能である。治療実験に際しては実験経験のある栗原助教、佐野薬学博士の協力をえて推進する。投与量や頻回投与、既存の治療薬や治療法などとの併用も視野に入れて研究を行う予定である。 ABC現象回避の指針を確立する研究として、今後は、AB型両親媒性分子を混合しないA3Bラクトソームについてより詳細にABC現象との関係を解明する研究に着手する。A3BラクトソームはABC現象を軽減できているが、初回投与後に少量ではあるが抗体が生産されている。そこでさらに詳細に調査するため、両親媒性分子の親水部であるポリサルコシン鎖の鎖長を変えた数種類のA3Bラクトソームを調整し、その血中滞留性とABC現象に対する効果を評価する。サルコシン鎖長を変えることでステルス性が向上し、その血中滞留性もまた向上するものと考えられる。これによりナノ粒子における親水部の厚みとその血中滞留性、それとABC現象の3つのパラメータの関係を明らかにできるものと考える。
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