2013 Fiscal Year Research-status Report
小角中性子散乱法を用いた高分子編目に働く僅かな水の高強度化機構の解明
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25810131
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び東海事業センター(利用研究促進部)) |
Principal Investigator |
富永 大輝 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び東海事業, その他部局等, 研究員 (50513694)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 高分子科学 / ソフトマター / 中性子散乱 / 水 |
Research Abstract |
研究代表者のこれまでの研究成果から、ともに水溶性高分子であるpolyacrylamideゲルとpoly(2-acrylamido-2-methylpropanesulfonic acid sodium saltゲル)で構成されるDouble Networkゲルから作成される多孔質高分子試料は、5wt%程度の水を含む時は、絶乾試料よりも弾性率、最大破断応力ともに大きくなる現象を発見した。ソフトマターの重要な特徴の1つは、水の存在によって物性が大きく影響することであるが、ここでは、水が階層性を有するソフトマター中のどの階層にどのように吸着し、どのように高分子物質の機械強度へ働くのかを中性子散乱法を用いて高分子物質の構造・ダイナミクスを明らかにする。 今年度は重水・軽水のコントラストを用いた小角中性子散乱法により、研究を推進した。はじめに0.001 Pa以下の真空下に水を水蒸気として導入し、水蒸気圧を圧力ゲージによって制御する中性子散乱同時測定システムを構築することに成功した。このシステムにより湿度0%の絶乾状態における水溶性高分子網目の構造因子を明らかにし、水蒸気雰囲気下における散乱プロファイルを取得し湿度の上昇とともに、変化する静的構造を評価した。結果、水蒸気の増加によって網目構造スケールのプロファイルが先に変化し、次に、高分子セグメントスケールが変化することを見いだした。現在、水蒸気雰囲気制御システムの高度化、また引張試験機との融合の検討を並行して進めている。今後は高分子鎖の運動性の湿度変化に対する挙動を評価し、柔らかい水溶性高分子鎖近傍の高分子鎖と水に焦点を絞って、非延伸下における湿度制御雰囲気下における中性子非弾性測定、小角X線散乱測定を併用してこれを明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の計画は、試料の検討、湿度雰囲気制御下における中性子散乱測定であった。当年、J-PARC施設は事故により稼働時間が大幅に減少したため、中性子散乱実験は一部を除き遂行できなかった。 J-PARC/MLFで利用可能な水蒸気制御可能な中性子散乱同時測定システムを考案した。0.001 Pa以下の真空下(湿度0%に相当)から、真空下に水蒸気を導入し、水蒸気圧を制御するシステムの構築に成功した。本システムは、水蒸気圧を精度高く温度制御して得られるものではないが、今年度の目標である同時計測系の開発は、順調である。試料は、polyacrylamideゲルとpoly(2-acrylamido-2-methylpropanesulfonic acid sodium saltゲル)で構成されるDouble Networkゲルから作成した多孔質高分子試料を用いた。軽水ラベルされた高分子網目試料に対して、重水の湿度依存性を評価したところ、湿度の増加により、小さい空間スケールのプロファイルが先に変化するのではなく、網目構造スケールが変化し、次いで、高分子セグメントスケールが変化する事象を発見した。 本年度行うことのできなかった非延伸下における湿度制御雰囲気下における中性子非弾性測定は次年度行い、本系における水分子・高分子鎖のダイナミクスを測定し、階層性を有する水溶性高分子網目が水の吸着によってどのように変化するのかを明らかにする。 他に本年度は、平成26年度以降に予定していたソフトマターに特化した試料環境設備として、湿度環境を制御した雰囲気内 で機械試験測定と時分割構造同時測定が可能なシステムの最適化をすでに始めた。駆動モータから発生するノイズを影響のないレベルまで低減することに成功した。多少順序が入れ替わっているが、順調に成果が得られているので、到達度をおおむね順調とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、おおむね順調に進んでおり、結果として実験条件の検討などが比較的スムースに進んでいる。平成26年度は、前年度に遂行できなかった非延伸下における湿度制御雰囲気下における中性子非弾性測定、小角X線散乱測定を行う。水・高分子の緩和評価では、すでに得られている核磁気共鳴(NMR)のデータや、ポーラスシリカ等細孔内の水のダイナミクスの研究などと比較検討する。本システムでは、ポーラスシリカ等のような硬い表面近傍の水のダイナミクスを評価するのではなく、柔らかい水溶性高分子鎖近傍の水のダイナミクスに焦点を絞って解析する。前年度小角中性子散乱によって得られた結果を元に、試料は電解質高分子網目(poly(2-acrylamido-2-methylpropanesulfonic acid sodium salt)ゲル)、中性高分子網目(polyacrylamideゲル))をそれぞれ準備する。これらに対し、同様に水が、階層性を有するソフトマター中のどの階層にどのように吸着し、網目構造が変化するのかを水蒸気雰囲気制御システムを高度化しつつ評価する。また、小角中性子散乱プロファイルでは網目構造由来と、水の構造由来の区別ができないが、水に対して鈍感だと考えられる小角X線散乱法を用いて、水の吸着で変化する水溶性高分子網目の構造変化を評価する。平成27年度は、polyacrylamideゲルの多孔質物質に対する水のダイナミクス測定と、高分子網目のダイナミクス測定を重水素化試薬を利用してそれぞれ評価する。非延伸下における強度を弾性率の値と比較してモデルを構築する。得られた中性子構造解析データから機械強度に関するスケールを特定し、そのスケールが歪みに対してどのように構造変化するかを動的粘弾性測定などを併せて行う。
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[Presentation] SANS study on Double-Network polymers2013
Author(s)
T. Tominaga, S. Takata, J. Suzuki, T. Shinohara, T. Oku, K. Ohishi, T. Nakatani, Y. Inamura, H. Iwase, T. Ito, et al.
Organizer
The 12th Asia Pacific Physics Conference
Place of Presentation
Makuhari Messe, Chiba, Japan
Year and Date
20130714-20130719