2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25810133
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
亀山 達矢 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40646759)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 量子ドット / 増感太陽電池 / 光捕集アンテナ / 階層構造 |
Research Abstract |
数nmの半導体粒子(量子ドット)は太陽電池の光吸収材料として利用した場合に、理論的には非常に高い変換効率が期待できる。しかし、報告されている変換効率は増感型太陽電池で最高6%程度と依然十分とは言えない。電荷移動効率を低下させることなく、多くの光エネルギーを系に取り込むことができれば、量子ドット太陽電池の高効率化が期待できる。そこで、本研究では、これを量子ドットの階層構造化による、エネルギー傾斜構造を利用することで達成する。エネルギー傾斜構造を構築するには、電子エネルギー構造を制御した量子ドットが必要である。そこで本年度は近赤外光領域にエネルギーギャップ(Eg)を有するAgInSe2(Eg: 1.25 eV)に着目し、可視~近赤外の広い領域でエネルギー構造を制御できる、ZnSe-AgInSe2固溶体((AgIn)xZn2(1-x)Se2; ZAISe)ナノ粒子の合成を行った。また、その電子エネルギー準位を光電子分光法により明らかにした。 コロイド法により合成したZAISe量子ドットはxの値によらず、およそ3-5 nmの球状粒子であった。吸収スペクトルからZnの仕込み量が増加、すなわちxが減少するにつれて吸収端が900 nmから、400 nmに短波長シフトした。電子エネルギー構造を明らかにするため、光電子分光によりイオン化ポテンシャルを測定し、吸収スペクトルから見積もったEgを用いてZAISeナノ粒子の電子エネルギー構造を算出したところ、伝導帯と価電子帯のいずれもがxの減少に伴って負電位側にシフトすることが分かった。このような量子ドットを配列することで、Type-IIの電位勾配を形成し、効率的な電荷分離の達成が期待される。また、全ての組成でZAISeナノ粒子は伝導帯から、酸化チタンへ光励起電子を注入可能であり、光増感剤として量子ドット太陽電池に応用できることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である量子ドット集積体を用いた、エネルギー傾斜構造構築のため、電子エネルギー構造を精密に制御した量子ドットが必要であった。そこで、これまでにZnSe-AgInSe2固溶体量子ドットを液相法により合成し、その電子エネルギー構造を明らかにした。また、このようにして得られた量子ドットは増感太陽電池に一般的に利用される、酸化チタンに対して、励起電子を注入可能な電子準位を有していることから、光増感剤として利用が可能であることを明らかにした。現在は、実際に、これらを多孔質酸化チタン電極上に固定化し、サンドイッチ型セルによる太陽電池素子評価を行っている。当初の目的である構造体構築のためのビルディングブロックを作製することに成功しており、順調に研究が進捗していると考えている。近赤外から可視域まで幅広く光応答性を制御できるZAISe量子ドットは、これまでに近赤外発光材料としての検討が1件報告されているのみであったが、本研究でその詳細な電子エネルギー構造を初めて明らかにし、さらに増感型太陽電池の光吸収材料として適用可能であることを実証した。これまで検討が成されてきた近赤外応答型の量子ドットはカドミウムや鉛を含むことが多く、ヨーロッパを中心としてこれら高毒性金属元素の利用が制限されるため、実用化の障害と考えられてきた。一方で、カドミウム・鉛フリーのZAISe量子ドットは、これらの代替材料としての可能性を十分有する。現在はこれらの成果をまとめて論文投稿準備をしている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在ZAISe量子ドットを酸化チタン上に固定化した電極を作製し、これを用いて量子ドット増感太陽電池の特性評価を行っている。予備的な結果として、太陽電池の変換効率は用いる量子ドットの化学組成に大きく依存し、x=0.5の組成で最も高い変換効率1.5%を得ている。xの値が大きいほど(すなわちAgInSe2の固溶比が大きいほど)Egは小さくなり、より多くの光を吸収できるが、同時に多孔質酸化チタン電極とZAISe量子ドットの伝導帯準位の差が小さくなる。このトレードオフの関係により、最適な固溶体組成比が決定されるものと考えている。今後はこれらの結果をベースとして、組成の異なるZAISe量子ドットを積層させることでエネルギー傾斜構造を構築する。現在は多孔質酸化チタン電極上を、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)で修飾し、これを架橋剤として合成したZAISe量子ドットを固定化している。MPAは二官能性の修飾剤であり、カルボキシル基が酸化チタン表面に吸着し、外に向いたチオール基が量子ドットを吸着することで架橋する。固定化された量子ドットをエタンジチオールでさらに修飾すると、これを架橋剤としてさらに量子ドットを積み上げることが可能になるものと期待される。これにより組成の異なるZAISe量子ドットを階層的に積み上げる。一般的に量子ドット間でエネルギー移動や電子移動など、励起キャリアの移動が起こる場合には、量子ドット由来の発光が著しく消光する。実際の太陽電池特性評価と合わせて、光学的な特性評価なども行うことで、構築するエネルギー傾斜構造が太陽電池特性の向上に寄与しうることを明らかにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初は既報で合成された高毒性量子ドットを購入もしくは合成して、目的の量子ドット積層構造体を構築する予定にしていたが、研究の過程で、自ら合成した高毒性金属を含まない量子ドットが、目的やその後の研究の発展を考えた際に、より適していると考えた。これにより、量子ドットを購入する必要が無くなり、また、新たに合成した量子ドットの試薬が比較的安価であったため、未使用額が生じた。さらに、購入予定であった実験装置も、必要な機能を吟味し、必要最小限の機能に特化した仕様にしたところ、予定よりも安価に購入できた。このような理由から、次年度使用額が発生した。 次年度は、本研究の計画を遂行するにあたり、太陽電池素子を作製し、実際のデバイス評価を行っていく。より高効率なデバイスを作製するためには、高品質な量子ドットを化学合成するする必要があり、高純度な化学薬品が必要不可欠となる。次年度使用額は、これら高純度試薬等の購入に活用する。また、引き続き実験を行うにあたり、測定装置の消耗部品等、装置メンテナンスを行う。さらに、情報収集や、得られた成果を広く世界に発信するため、国際会議への参加に伴う旅費へ助成金を活用する。
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Research Products
(22 results)