2013 Fiscal Year Research-status Report
固体表面における水分子の散乱機構の解明-ナノ流路内の水蒸気輸送解析に向けて-
Project/Area Number |
25820040
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
杵淵 郁也 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (30456165)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 分子流体力学 / 希薄気体力学 / マイクロ気体流れ |
Research Abstract |
マイクロ・ナノデバイス内部の流動解析への展開を念頭に,シリコン(100)表面に衝突した水分子の散乱挙動を分子線実験により解析した.水分子の入射並進エネルギーは室温における気体分子の熱運動エネルギーに対応する領域を含む35~370 meVとした.シリコン表面は超高真空中で加熱することで酸化膜を除去してから室温まで冷却し,重水(D2O)の解離吸着によりダングリングボンドがDまたはODで終端された状態にして用いた. 入射エネルギーが比較的高い場合,水分子の表面へのエネルギー適応の程度は低く,散乱後の平均並進エネルギーと散乱角(表面法線と散乱方向のなす角)の間に正の相関がみられた.散乱分子の速度分布が表面温度の熱平衡状態には達していないものの,表面の原子スケールの凹凸の影響により,散乱角度分布はコサイン則に近い拡散的な分布を示した.一方,入射エネルギーが低い条件では,散乱角度分布に鏡面反射角よりも表面法線に近い方向へ向かう指向性が現れ,散乱後も入射時の表面接線方向速度の履歴を強く残していることが確認された. 以上のように,シリコン表面における水分子の散乱挙動は,入射エネルギーに依存して著しく変化することが明らかになった.特に散乱角度分布の指向性は顕著に変化し,その結果として接線方向運動量の適応の程度が大きく変化する.シリコン表面における運動量適応係数の入射エネルギー依存性は,申請者らが過去に計測を行ったグラファイト表面における散乱とは逆の傾向を示した.マイクロ・ナノデバイスにおける水蒸気輸送では,本研究で明らかになった散乱挙動の入射エネルギー依存性が流動特性に強く影響すると予想される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シリコン表面を対象とした解析はほぼ研究計画通り実施できた.その結果,接線方向運動量適応係数の入射エネルギー依存性が,表面の材質によって逆の傾向を示しうることが明らかになった.得られた結果は,マイクロ・ナノデバイス内部における水蒸気輸送解析を精緻化するという研究目的に寄与する重要な知見であると考えている. 上記の結果の検討を優先して進めたため,当初計画で予定していたシリカ表面を対象とした計測は次年度に持越しとしたが,本研究課題で行ったシリコン表面の計測と過去に行われたグラファイト表面の計測の比較から重要な知見が得られたことを踏まえ,本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
接線方向運動量適応係数の入射エネルギー依存性が表面の材質によって逆の傾向を示しうる原因を,分子線散乱実験と分子動力学シミュレーションを相補的に用いることにより明らかにする.解析対象とする表面はシリコン(100)表面を中心に据えるが,必要に応じてα-石英(0001)面なども含めることにする. また,マイクロ・ナノデバイス内の高クヌッセン数流れの解析に用いるための散乱挙動のモデル化についても検討を行う.
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Research Products
(5 results)